異世界もふもふ保育園へようこそ!
「ハルナ、たぶん無意識でこのスキルを獲得したのね。獣人に好かれやすいのに、ますます人気になるわよ」
なんて言われたが、まさかこんなことになるとは……。
スキル、超グルーミング。
その価値観が私には分かっていなかったと自覚したのは、その日ローライド家へと帰宅するために歩いていた村の中でだった。
「ハルナちゃん! 私の髪も触っておくれ」
まずそう声をかけてきたのは村で雑貨屋を営むヘレンさん。
「何でです?」
そう聞き返すと、ヘレンさんはあっさり教えてくれた。
「ライラが保育園の帰りにうちの店に寄ったんだよ。すっごい艶やかな髪になったから聞いたら、これはハルナの力よっていうからさ」
にこやかに放たれた一言に驚きを隠せない。
ママさんたちの物事の伝達能力の高さがうかがえるってものだ。
こうしてこの日を境に私は村で度々女性陣の髪を梳かして撫でる日々が始まるのだった。
超グルーミングの効果は女性を喜ばせ虜にするらしい……。
実に恐ろしい能力に目覚めたものである。
ちなみにスキルにはもう一つあって、それはトレーナー能力と書かれていた。
これは自分の指示が相手に伝わり実行しやすくするスキルらしい。
保育という完全にままならない子ども達と向きあうには最適なスキルだと感じた。
このスキルのおかげでだいぶ助けられてる気がする。
なにも無かったら初対面の大人にあっさり従うことはなかっただろうからね。
私がここで生きてくためには必要なスキルと言えよう。
ありがとう、おっちょこちょいの女神様。
そうして熱い真夏は、ゆっくりのんびりと過ぎていく……。
黒い足音は徐々に近づくようにして、私の背後に立った。
そう、ここでもこの時期は台風が来るのだということを、うっかり忘れてしまったのだった。