【完】溺愛したいのは、キミだけ。
顔を上げ、驚いたような声を出す倉田くんを、翠くんがじっと睨みつける。


そして、不機嫌そうな顔のまま、こう言った。


「そういうの、お前がやんなくていいから」


「え、いや、俺は……」


「ヒナ、来て」


そう言って私から腕を離すと、今度は手をギュッと握ってくる翠くん。


「あっ……」


そのままなぜか手を引かれ、教室の外へと連れ出された。


「ちょ、ちょっと、翠くん?」


なんだろう。一体どこへ向かうのかな。


翠くん、なんでそんなに怒ってるの?


スタスタと早歩きで歩く彼に、戸惑いながらもついていく。


すると、いつも二人でお昼を食べている社会科準備室の前で、翠くんが立ち止まった。


中へ入り、バタンとドア閉めると、パッと私の手を離す彼。


そして、はぁっとため息をついた。


「あの、どうしてここに……?」


おそるおそるたずねたら、翠くんがポケットから自分のハンカチを取り出し、渡してくれる。


「これ、俺のだけど、使って」


「あ、ありがとう」



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