平凡な私の獣騎士団もふもふライフ
「目を伏せるな」

そう唐突に言われて、ドキリとした。

「こっちを見ろ」

「な、なんでですか」

下を見つめたまま戸惑い答えた。ふつふつとよく分からない恥じらいに頬が熱くなると、自分に注意を戻させるようにジェドが手を少し引く。

「お前の目が見えないからだ」

目……? どういう意味だろう。

妙な回答だと思って、リズは恐る恐る彼へと目を戻した。立っている時よりも近くから目が合ったジェドが、何も言わないままじっと見つめてきた。

珍しくリラックスしたみたいな顔は、まるで寝惚けてでもいるみたいだった。言葉を待つリズは、戸惑いがいっぱいで目を丸くしてパチパチとやった。

小首を傾げてしまったリズの春色の髪が、ぱさりと胸に落ちた。

その時、彼女の膝の上で、幼獣が「みゅー」と寝言を上げて身体を伸ばした。

妙な空気が払拭されたかのように、ジェドが不意に満足げにニヤリとした。それはリズが見慣れたいつもの表情で、あの意地悪で悪巧むような笑みである。

「意外と触り心地のいい手だ。幼獣が気に入るのも分からんでもない」

するり、と彼が手を離していく。

恐らくは、分かっていて動揺させるためにやったのだろう。無駄に美しい見た目で精神攻撃してくるの反対ッ、とリズは思った。

「もうッ、団長様は寝ていてください!」

幼獣達を起こしてしまわないよう、しっかり声を押さえつつ伝えた。

そのままリズは、ぷいっと顔をそむけた。



少し面白そうにジェドが「ふうん」と呟く。リズが勝手に怒ったり恥ずかしがったりと百面相している様子を、彼は結局、短い休憩の間ずっと見ていたのだった。
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