平凡な私の獣騎士団もふもふライフ
そうだとすると、今の状況は最悪だ。私は獣騎士じゃない――。

その時、後ろから、獣の低い唸り声を押しのける一喝が上がった。

「リズ!」

ありったけの声で、そう名を呼んでくるジェドの声が聞こえた。

どうやら騎士達と一緒にいたらしい。そうやって名前を呼ばれたのは初めてである気がして、彼がそう叫ぶくらいの緊迫した状況なのだと分かった。

つまりコレは、追い付かれたが最後バクリとイかれてしまう。

リズは、振り返れないまま必死に走った。地面を抉る足音と獣の吐息が、だんだん近づいてきている現状に「ひぇ」とまた声がもれる。

と、不意に、前へと出した片足がツンッと引っ掛かった。

そのまま身体のバランスが崩れて、リズは「うわっ」と声を上げた。自分が何もない芝生で躓いてしまったのだと、僅かの間に感じる浮遊感の中で悪寒した。

なんで大事なところでいつもドジ踏むのおおおお!?

そう思ったが声に出すのも間に合わず、リズは頭から派手に芝生へ突っ込んで転倒していた。後ろから、ちょっと拍子抜けしたような「うわー」「これは痛い」「顔からいったぞ」「マジかよ」というツッコミのオンパレードが聞こえてきた。

だが、今、それに構っている状況ではない。

ハッと顔を上げて振り返ってみると、もうすぐそこまで暴れ獣が来ていた。大きな口が開くのが見えて、リズはへたりと座り込んだまま動けなくなる。

ああ、もう駄目だ、そう思って涙目で息を呑んだ時。

一回り大きなその白獣が、不意に四肢を踏ん張って急ブレーキを踏んだ。目の前で止まったかと思うと、こちらをギロリと見下ろして――きちんと座った。
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