きみは俺だけの彼女
斎藤は小さめな肩掛けバッグだけで来た。
牧場に行くからか、足首が見える七分丈の細身のパンツの上は、ラフなシャツと薄手の柔らかそうな大きめのジャンパーを着ていた。
そういえば、斎藤の私服を見るのは初めてかもしれない。
肩に掛かる髪はいつも飾り気ないストレートだが、細く柔らかい髪が少しの風で揺れていた。
パッチリとした二重の瞳に長いまつ毛は大きく見開いて空人を見つめる。
どうやら、俺だけでなく空人が来ることも知らなかったようだ……。
それでも古谷が半ば強引に車に乗り込ませて出発した。
車内でまた揉めた。
泊まりのことすら聞いてなかったのか。
だから荷物が少なかったのか。
それでトランクの綺麗な箱を思い出した。
どこかで見たことあると思った箱はブランド品の数々。
斎藤に用意した着替え類か……。
最初から半拉致状態の計画。
だから俺にも最小限のことしか言わなかったんだな。
流石に斎藤を気の毒に思ったが、古谷に抱きつかれ困惑気味な斎藤がこっちを見た。
目が合った。
途端に古谷達の無謀な計画に感謝した。
ここまできたら、俺も計画の一端を担っていたと雪姫は思うだろう。
だから俺は声に出して古谷達を援護した。
味方が一人もいないと感じたのか、少し微妙な顔をしたあとこの状況を受け入れた。