好色歯科医が初めて真剣な恋をしました
「大学病院で 診察するのって 大変ですか?」
亜紀子が 聞くと 豊は 軽く首を傾げる。
「どうだろう。難しい患者さんは 多いけど。むしろ 開業医より 楽じゃないかな。病院に 守られている分だけ。」
「大西先生は 開業しないんですか?」
「僕は 器用じゃないから。診察と経営の両方を こなす自信がないんだ。」
「杉山先生も 大変そうな時 ありますよ。スタッフの採用が 決まらない時とか。」
「杉山先生でも?それじゃ 到底 僕には 無理だな。」
豊は そう言って 微かに笑う。
「僕の父親は 普通のサラリーマンで。ずっと 会社勤めしている姿を 見て育ったからかな。僕には 勤務医が 合っているような気がするんだ。」
豊の言葉に 亜紀子は 大きく頷いた。
豊の 普通さが とても心地良くて。
「私の父も 普通の会社員だから。開業医って 個性的な人が多くて。ちょっと 驚くことが ありますよね。」
「杉山先生も 個性的だもんなぁ。」
豊の 穏やかな笑顔が 胸に沁みて。
亜紀子は 豊に どんどん 惹かれていく自分が 怖かった。