あいつがいない世界で。
「三組の、高尾が死んだらしい」
そんなビックニュースをもちこんできたのはクラスの中では、目立つ男子の一人である宮崎が今朝、教室に飛び込んできて放った第一声だった。
(高尾って誰だっけ)
私は、そんなことを考えながら、荷物の整理をしているところだった。
「高尾って、誰だっけ?」
「ほら、地味で大人しめの高尾圭介だよ」
私と、全く同じようなことを考えていたらしい笹原の質問に、宮崎は即座に答えた。
「あぁ、あの眼鏡の」
眼鏡の、地味で大人しい男。
そう聞いて、ピンと来たのは笹原だけではなく、私もだった。
昨日の朝も、廊下ですれ違ったあの人。
彼の名前が高尾だという点に何故かしっくりときた。
そういえば、前に見かけた時に高尾、と呼ばれていたような気がする。
何故か、毎朝廊下ですれ違う彼の名前を私は、今日この時まで全く持って知らなかった。と言うよりか、多分興味がなかったのだと思う。
何故って、私は彼と同じクラスになったことは一度もないし、彼のクラスと私のクラスは三つのクラスを挟んでいたのだから。