あいつがいない世界で。


それから数週間後、長年飼っていた猫が死んだ。


けれど、不思議と涙が出てくることも、悲しく思うこともなかった。


彼女が、死ぬということがあまりにも遠かった。

物心が着いた頃にはもういた彼女が、この家から消えた。


今この世界に存在しないこと、それが私の想像の範疇を超えてやっぱり、よく分からない出来事だったんだと、そう思う。

数週間前の高尾圭介の死と同じように、私からすれば、死はあまりにも遠すぎるのだ。


でも、やっぱり、私の家の一匹の猫が死んだって、他の人はそれを知らないし、誰もそんなことを予測しているわけが無い。

結局、いつも通りの生活をして、いつもと同じように生きていくのだ。

何も入っていない、綺麗なままの彼女の皿もそのままにして。

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