こちら、陰陽相談所~"妖怪"は目に見えなくてもちゃんと存在するのです☆~
 彼女は面接用に気合いを入れた服装――白い(えり)付きシャツにベージュのチノパン・グレーのテーラードジャケット――に合わせ,ヒールが五センチくらいある黒いパンプスを()いてきていた。この(くつ)で鬼火を追いかけて走ることは容易(ようい)ではない。
 せめてローファーで来るべきだったと後悔(こうかい)したものの,面接の約束をしている五時は目前(もくぜん)(せま)っている。
「しょうがない。走るか!」
 (くさ)っても(いや,腐ってはいないが)元体育会系である。ヒールを履いて走るだけでへたばるほどヤワではない。
 (あや)うく見失うところだった鬼火の姿を(とら)えると,美咲はその方向に向かって猛ダッシュしていった――。

****

 ――それから二分後。
「はー,ギリギリ間に合った……」
 美咲は息を切らしながら,鬼火が姿を消した一軒の大豪邸の立派な門扉(もんぴ)の前に着いた。
 大正時代から昭和初期に建てられたと(おぼ)しき二階建ての洋風邸宅で,石で(つく)られた〈嵯峨野〉という表札の上部に〈嵯峨野よろず相談所〉と()られた真鍮(しんちゅう)製の楕円(だえん)形プレートが太めのチェーンでかけられている。
(ここが相談所か……。ってことは,個人で細々(ほそぼそ)とやってるのかな)
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