こちら、陰陽相談所~"妖怪"は目に見えなくてもちゃんと存在するのです☆~
『分かりました。では,夕方五時でどうでしょうか?』
 早ければ早いほどいい。――美咲は何のためらいもなく返事をした。
「はい,大丈夫です。――あの,履歴(りれき)書は必要ですか?」
 面接に必要だと思われる情報は,先ほどメールで送ったけれど。必要とあらば,この電話を終えたら大急ぎで書けばいい。
『履歴書は必要ありません。必要な情報はメールで頂きましたので。では,夕方五時,事務所でお待ちしています。――場所は分かりますか?』
「はい。求人情報に載っていたので。だいたいの場所は分かります」
 このページをプリントアウトして,それを(たよ)りにスマホの地図アプリを見ながら行けば辿(たど)り着けるだろう。同じ東京(とうきょう)都内だし。
『そうですか。では近くまで来られたら,連絡を頂けますか? 案内役の者をよこしますので』
(……案内役?)
 美咲は首を(ひね)った。どんな人が来てくれるのか分からないけれど,一人で行って迷うよりはずっと安心だ。
「分かりました。ありがとうございます。では夕方五時,よろしくお願い致します。失礼致します」
 美咲は先方が通話を切るのを待った。――ビジネスの電話は自分から切らないのがマナーである。
「よし☆ あとはこれで,すんなり採用が決まれば……」
 これだけの好条件だし,こんなうまい話が世の中にゴロゴロとあるわけがない。普通なら,「(あや)しい」と(うたが)ってかかるべきなのだろう。 
 けれど美咲には,自分がこの求人に自然(しぜん)(みちび)かれた気がしてならないのだ。
(誰に? って訊かれても,誰にだか分かんないけど)
 理屈(りくつ)じゃなく,第六感でそう感じるのである。"野生のカン"というのか……。
「ふーっ。とりあえず,面接決まっただけでも一歩前進だな」
 美咲はホッとして,一人(つぶや)く。
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