俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です

第三話 ネットワーク環境


 おかしい。
 心臓がドキドキしている。俺は緊張しているのか?

「タクミ」

「オヤジ。桜さんと美和さんは?」

「もう帰ってきている」

「わかった」

 作業部屋()から出て、森下家に向かう。

 美和さんがすぐに出てきてくれた。

「タクミ。どうしたの?克己も一緒?」

「桜さんは?」

「リビングよ?ユウキも呼ぶ?」

「大丈夫。桜さんと美和さんに、お願い。違うな。宣言しに来ました」

 オヤジが、後ろから美和さんになにか合図を送っているが後ろを振り向いてはダメだろう。

「あら。そうなの?良いわよ。上がって、リビングはわかるわよね?」

「はい」

 俺、やっぱり緊張している。美和さんと普通に話ができない。

 桜さんが定位置に座っている。美和さんも、桜さんの横に座る。普段は、ユウキが座っている場所だ。
 俺は桜さんの正面に座るのがいいだろう。オヤジは・・・。壁に寄りかかってニヤニヤしている。趣味が悪い。後で、オフクロに告げ口をしよう。

「タクミ。作業部屋は見てきたか?」

 桜さんに先に言われてしまった。

「知らなかったのは、俺だけだったようですね」

「そうだな。ユウキにしては珍しく、お前を騙せていたみたいだな」

「はい。すっかり騙されました」

「ククク。そうだな。それで?俺に話があるのだろう」

「はい。桜さん。美和さん。ユウキを、娘さんを貰いに来ました」

 桜さんは俺を見つめる。

「ダメだと言われたらどうする?」

「そうですね。ユウキをさらって逃げます」

「俺からか?」

「はい」

「逃げられると思っているのか?」

「逃げられるとは思っていません。だから、美穂さんを頼ろうと思います。美穂さんの所からなら遠くなりますが学校には通えます。卒業したら、マナベさんかツクモさんを頼ろうと思います。未来さんに相談してもいいかもしれないですね」

「お前な・・・。克己!」

「桜。お前、まだ、タクミに答えていないぞ?」

「美和。お前・・・。笑っていないで、なにか言えよ」

 美和さんを見ると確かに笑っている。桜さんだけを見ていて気が付かなかった。

「桜さん。タクミは、桜さんと正面から話をしていますよ?」

「わかった。わかった。タクミ。ユウキを連れて行け、その代わり、泣かせるなよ」

「はい。絶対に・・・。とは、約束できませんが、ユウキと幸せになります」

「ふ・・・。美和のお父さんもこんな気持だったのかね?」

「さぁ・・・。だって、桜さん。実家に来た時に、お父さんと殴り合いの喧嘩を始めたでしょ?探しに行ったら、ボコボコの顔をしながら、お義母さんの店で、二人で飲んでいたわよね?」

「忘れたよ。そんな昔の話・・・」

 オヤジを見ると、ニヤニヤしている。

「タクミ。もう一人、大事な奴を忘れているぞ?」

「え?」

「ユウキ。聞こえていたのだろう。降りてこい」

 オヤジが二階の方を向いて話しかける。確かに、ユウキの部屋は二階だけど奥のハズだ。声が届くはず・・・。

「タクミ・・・」

「ユウキ?」

「タクミ。僕・・・」

「ユウキ。大学を卒業してからになると思うけど、俺と結婚してくれ、ユウキが居ない生活は考えられない。俺には、ユウキが必要だ」

「・・・。タクミ。本当?僕でいいの?」

「ユウキがいい。ユウキしか考えられない」

「うん。タクミ。僕、タクミのお嫁さんになる!」

 ユウキが走って来て俺に抱きつく。立ち上がっていなければ、ユウキを支えられなかっただろう。

「タクミ君」

「はい」

 ユウキを抱きしめながら、美和さんの呼びかけに返事をする。

「大学卒業まで待たなくていいわよ。高校卒業と同時に結婚してもいいわよ。ね。桜さん?」

「え?」「え!いいの!パパ!ママ!」

「そうね。タクミを逃さないように早いほうがいいと思うからね。それに、お義母さんに・・・」

「美和・・・。タクミ。結婚のタイミングは好きにしろ、だが、結婚の前に知らせろ。お前に会わせたい奴が居る」

「え?」

「桜!」「桜さん!それは・・・」

 桜さんが、驚くオヤジと美和さんを手で制した。

「克己。美和。俺と克己と真一と万人で因果が切れなければ、タクミとユウキに繋がる。そして、子孫に繋がるかもしれない。そのために、奴に会っておく必要があるだろう?」

「それはわかるが!」

「そうよ。桜さん。そのため、私たちは・・・」

「そうだな。でも、俺たちで、無理だったら・・・。タクミに託すしかないだろう?」

「・・・」「・・・」

「桜さん。オヤジや桜さんの跡継なら喜んで引き受けます。だから、そんな切ない顔をしないでください」

「そうだな。すまん。タクミ。ユウキ。もう一つ、俺が美和の父親から言われたセリフがある。お前たちにも伝えておく」

「はい」「うん?」

「子供を作るなとは言わない。だが、それは、俺が50を超えてからにしてくれ、40代でおじいちゃんとは呼ばれたくない」

「はぁ?」「え?」

「ハハハ。あの人ならいいそうだな」

「だろう?」

「お父さん・・・」

「それで、桜さんは?」

「ん?ユウキが産まれたのは、偶然にも、お義父さんの49歳の誕生日の2日前だ。最高だったな。ユウキを連れて行って、”おじいちゃん”と呼んでやった時の顔は、一生、忘れない」

「・・・」「・・・」

 美和さんは眉間にシワを寄せて頭を押さえているから、本当の話なのだろう。オヤジが結婚した翌年に俺が産まれたと聞いているから、偶然同じ年にというわけではないだろう。何かしらの作為が働いたのだろう。
 でも、今はその作為に感謝をしよう。

 ユウキを捕まえたのだ。捕まったのは俺かも知れないが、気にしない。

「ユウキ。約束通り、明日からタクミと作業部屋で過ごしなさい」

「うん!ありがとう。ママ。パパ!タクミ。よろしく。克己パパ。荷物を運ぶね!」

「荷物は業者が来るから大丈夫だ。タクミとユウキは、部屋割を考えておけよ。あぁあとタクミ」

「ん?」

「ネットワーク図と見取り図を送るから見ておけよ」

「わかった」

 ユウキは、今日は森下家で過ごす。家族で話し合いをするらしい。主に、美和さんの事務所の話だ。
 俺は、作業部屋のネットワークや配線を確認する作業を行う。

「オヤジ」

「ん?」

「ありがとう」

 それだけ言って、作業部屋に向かった。なぜか恥ずかしくなってしまったのだ。

 オヤジからすぐに家庭ネットワークの配線図とスペックが送られてきた。同時に、見取り図や家に関する情報がまとめられている。

 光回線が二本引かれている。
 一本は業務用の回線だ。費用は高いが安心できる。固定IPが振られている契約になっている。サーバの設置は考えていないが、固定IPがあればいろいろと便利だ。1IPかと思ったら、クラスCの/30で取っている。セッション数も、増やしてある。ルータも、オヤジが好きで使っているオムロン製の物だ。サーバを置くことを想定しているのかも知れない。もしかしたら、オヤジからサーバの委託業務とかがあるのかも知れない。
 もう1回線は一般の戸建用の光回線だ。プロバイダーは俺が選べば良いようだな。オヤジからの注意事項でプロバイダーは、ヒカリTVが使える物に、しろか・・・。確かに、アンテナが付けられていない。部屋の配線図を見ても、同軸ケーブルは引かれていない。
 ユウキがTVを見るだろうし、スカパーも何か見ていたよな。両方とも見られるようにしておくか・・・。

 すべての部屋にLANケーブルの口ができている。カテゴリー7Aでシールドもされているようだ。部屋の使い方は、ユウキと決めたほうが良いだろうな。

 そう言えば、どこにネットワークはどこに繋がっている?

 配線図を追ってみると、地下室に集中しているのが解った。
 地下室にルータを置いて、サーバ室にしろということか?

 俺は、見取り図から地下室の入口を探して地下に降りた。

 そこで、膝から崩れ落ちた。

 屋根の上にバカでっかいソーラパネルがあるなとは思っていたが、電力パネルが一階になかったからどうなっているのかと思ったら、地下に電力パネルが配置されていた。

 ルータもオムロン製のルータが3つ設置されている。
 48Uのサーバラックと一緒に・・・。
 上3段にルータが設置されている。

 中段くらいに、2U使ったサーバが一台設置されている。
 サーバラック用のモニターとキーボードが設置されている。その上に、16台を切り替えられるコンソールスイッチも付いている。

 オヤジは俺に何をさせたい。
 下部には、UPSが設置されている。容量は、どこかにあるマニュアルを探さないとわからないが容量が大きいのは見た目でわかる。ラックマウント型で、6機動いている。

 そして、いやらしいのは、ハブまでマウントされているのに、ケーブルが接続されていないのだ。
 ルータも3台あることから、DMZを作るか、ルーティングをさせるつもりなのだろう?

 オヤジたちはなにか勘違いをしている。
 俺は、パソコンが好きで、ネットワークが好きな”高校生”だぞ?
 専門的な知識も経験もない!それでどうしろと言うのだ!
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