俺は、電脳世界が好きなだけの一般人です
第五話 結局
きっちり30分後に、まーさんから連絡が入った。
連絡が来るだろうと考えて、生徒会室からパソコン実習室に移動していた。戸松先生と雑談をしていた。
『タクミ。遅くなったな』
「いえ、時間通りです」
『そうか?それでな』
「はい」
『タクミ。詳細は、あとで克己と桜に送る。それで、結論だけど、筋が悪い金主が居る』
「金主?スポンサーみたいな者ですよね?」
『あぁそう考えて間違いじゃない』
「筋が悪い?」
『自称IT屋だ。広告代理店で、フロントだ』
「え?」
『TVのCMや番組とかにも顔が利く。芸能事務所・・・。主に、アダルト関連だけどな。そっちに顔が利く奴らで、システム周りも、そういう系統が多い』
どっかで聞いた話だ。
オヤジに詳細なデータが送られてくるらしいから、それを読めばいいか・・・。
「フロントと言うと・・・」
『反社だな』
「まーさんみたいな?」
『タクミ!俺は、違うと何度も言っているだろう?盃も受けていなければ、警察や公安にも世話になっていない。ケツモチも居ない。真っ白でクリーンな身体だ!』
「はいはい。そうでしたね。そうですか・・・。反社関連なのですね」
『そうだな。しっかり、盃を受けたような奴らじゃなくて、その末端の末端で、信州や北陸あたりで野菜や高級果物を漁っている様な連中だ』
「”たち”が悪いということは解りました」
『そうだな。お前の関係者が絡んでいるのなら、即刻手を引かせろ、近々手が入るぞ』
「え?捜査?」
『多分だけどな』
「サクラをやっていた連中には何かありそうですか?」
『そうだったな。あのシステムは、紹介者に、手数料が入る仕組みだ。親に3%で、その上が2%で、その上が1%らしい』
「紹介料は?」
『そのまま、紹介者にはいるらしいが、わからない』
「まーさん。ありがとう。だいぶ見えてきた」
『そうか、今度、事務所に魚の干物でも送ってくれ、それと宮原の海苔を頼む』
「え?宮原の海苔?オヤジに聞けば解る?」
『桜か美和でも解る』
「わかった。期待していて」
『ハハハ。わかった。びっくりするなよ!それじゃぁな。また何かあったら連絡をくれ、この番号なら大丈夫だ』
「うん。ありがとう。またね」
電話を切って、戸松先生を見ると、渋い顔をしていた。
「篠崎。お前の知り合い・・・。今はいいか、情報提供に感謝しよう」
「そうですね。でも、事態は最悪の状態ですね。部活連の連中がどこまで知っていたのかはわからないのですが、部活連の解体で済めば助かったと思わなければならない状況です。最悪だと逮捕者が出ますよ」
俺の言葉に、戸松先生は黙ってしまう。
それはそうだろう。教師が担当するには重すぎる案件だ。
「情報の真偽は、論じても無駄だな。今は、情報が正しいと考えて動かなければダメだな」
「そうですね。上地が絡んでいたとして、奴だけで終わらせないと、影響が大きすぎます」
「篠崎」
「は・・・。あっ戸松先生。少しだけ待ってもらえますか?ユウキからメッセージなので」
「おぉ。話が終わったから、呼んでもいいぞ?森下なら問題ないのだろう?」
「わかりました」
連絡が欲しいようだ。
ユウキに電話する。すぐにユウキが出て、数名の先輩を連れて、パソコン自習室に来るようだ。
「先生。嬉しくない知らせです」
「ん?」
「新しい証言者です」
10分後に、ユウキが先輩と思われる女性を3名連れて、パソコン実習室にやってきた。
見たことはあるが、名前は知らない。確か、建築科だったと思うが・・・。一人は、バイトを申請していたはずだ。確か、後藤だったと思う。
「タクミ。あのね。後藤先輩が、タクミに聞いて欲しいらしいけど、大丈夫?」
「北山関連か?」
「違う。部活連の副会頭から進められたバイトが安全か知りたいみたい」
やはり、後藤で合っていたようだ。
桜さんから聞いた記憶があるが、気のせいかな?
「それで、後藤先輩は何のバイトを進められたのですか?」
「あっ・・・。これ」
口数が少ない人だけど、大丈夫なのか?
後藤先輩から、紙が渡される。北山と同じように、URLと紹介者コードとメールアドレスと電話番号が書かれている。URLは違うな。
開いて、先程と同じように調べる。
『おっタクミ。どうした?』
「まーさん。ごめん。さっきの奴ら、チャットレディーの真似事もしている?サイト名は・・・・」
まーさんに謝りながら、サイト名と運営者を告げる。
『あぁ同じ手口の別のチームだ。運営者が、名前が出ていた』
「ありがとうございます。それだけです。海苔を増量して送ります」
『それなら、ツナ缶を頼む。こっちで買うと高い』
「ハハハ。わかりました。工場で買って送ります」
『悪いな』
電話を切った。やはり、根っこは同じだったようだ。
「え?タクミ。まーさんに連絡したの?そういう関係の話なの?」
「あぁ」
「えぇぇぇ何を考えているの?バカなの?」
「バカなのだろうな。あっ」
先輩たちが話に付いてこられなくなっている。
話を端折りながら説明を行う。他の先輩たちも似たような感じで進められたようだ。バイトじゃなくて、小遣い稼ぎ。空いている時間を使うだけだから、勉強の邪魔にもならない。1ヶ月だけは続けて欲しい。後輩たちの証言と似ている。
「ユウキ。桜さんに相談は?」
「パパ?話はできるけど、どうだろう?ママの方がいいかもしれないよ?」
「戸松先生。どうしますか?俺、面倒に思えてきました。全部、暴露してしまいませんか?」
「・・・。それも一つの方法だな。問題は、北山らの話に乗って、バイトを始めてしまっている連中だろう・・・」
「え?身から出た錆。自業自得。いろいろ言葉がありますが?」
「辛辣だな。でも、そうだな」
「そうだ、ユウキ。他の先輩方は北山のバイトをしている人たちは?」
「いないみたい。全員に聞いた。嘘を言っていたらわからないけど・・・」
「嘘を吐かれていたら、手が出せないからな。先輩たちは、絶対に手を出さないでください。最悪は、逮捕まであります」
皆が頷いてくれた。
北山や大将が言っていた羽振りが良くなった連中の、金の出どころが解った。
「戸松先生。少し、ご相談があります」
「・・・。なんだ?」
「ユウキや後輩たちに動いてもらうことになってしまいますが・・・。北山や部活連の副会頭が進めるバイトは違法ではないがグレーで、裏社会に名前を登録するのに等しいと噂を流します」
「ん?」
「それで、手を引いて、相談に来たのなら、ユウキの母親に相談に乗ってもらいます。丁度、そういう事業を始めるので、タイミングは良いでしょう」
「・・・」
「しかし、進めていた奴らは、救えません」
「?」
「多分、学校が許しても、組織が許しません」
「・・・。そうだな。紹介料を取っておきながら辞めると言い出すのだからな」
「はい」
俺が提案しなくても、戸松先生が承諾しなくても、ユウキが口を噤んでも、先輩たちが話を聞いてしまった。後輩に簡単に説明をしてしまっている。彼女たちが噂として話をするだろう。戸松先生も解っている。だからこそ考えていたのだ。
「先生。無いですよ。多分、去年の段階で解っていたら、傷口はもっと小さかったと思いますが、もう無理です。北山と副会頭。あと、多分、幹部の数名はダメでしょう」
「篠崎。でもな」
「解りますけど、無理です。学校は、絶対に切り捨てます」
「ねぇタクミ。それって・・・」
ユウキが、自分の首を手刀で切る真似をする。俺は、うなずく。皆が話の流れから解っていた。
俺と戸松先生が考えていた以上に自体は深刻だった。
学校が処分を検討としていた最中に、北山がやらかしていた。紹介料を得るために架空の人物になりすましていた。運営サイトが黙って見過ごすわけはない。詐欺として訴えると北山を脅してきた。当然の手段だな。サイトは非合法なことをしているわけではない。法律の範囲内で活動しているのだ。
そして、北山は後輩たちに言ったように、”最強のハッキングツール”を自宅で使用した。
サイトは、すぐに警察に被害届を出した。北山は、警察の事情聴取を受けて、ハッキングツールとサイトへの攻撃を認めた。
それから、学校の動きは早かった。
北山の退学が決定した。パソコン倶楽部に残っていた生徒の半数が部費の流用を認めた。出会い系のサクラも行っていた。甘いとは思うが、1ヶ月の謹慎処分となった。
部活連の会頭は、今回の話には絡んでいなかった。しかし、役員の半数が上地から話を聞いて後輩を脅したりしてサクラをやらせていた。部活連は、解体と決まった。会頭が生徒会に入って、ひとまずは部活連がやっていた業務を引き継いだ。紹介料を貰っていた連中は、無期限の停学となった。留年は確実の状況だ。就職が決まっていた先輩も居たが取り消しとなった。推薦入学も取り消しと決まった。サクラをやっていた生徒は、2週間の謹慎処分と決まった。
俺は、オヤジと桜さんと美和さんに呼び出されて、事情説明を行った。
どうやら、まーさんから話が行ったようだ。まーさんに連絡したのは問い詰められなかった。俺の報酬から、まーさんへの報酬が支払われただけだ。オヤジは、まずは自分に話を通せと言っている。桜さんも同じだ。美和さんは、違っていた。いきなり、先輩のご家族が来て礼を言ってきたらしい。名前を出すのは構わないけど、出したのなら報告をしろという事だ。
オヤジたちからの説教が終わって、作業部屋に帰ると、ユウキがリビングで俺の帰りを待っていた。
「タクミ。パパたちの話は終わったの?」
「あぁ」
「僕、お腹がへった」
「わかった。何が食べたい?」
「うーん。ハンバーグ!あっパンでいいよ?」
「また、面倒な物を・・・」
「ダメ?」
「わかった。ユウキも手伝えよ」
「うん!玉ねぎを切るね!」
俺は、俺のできることをやればいい。
ユウキと一緒にハンバーグを作りながら、この日常が必要なことだと理解した。