マシュマロベイビー
簡単に確保された紅葉
「第一発見者っつーことで
オレがもらっていいよな?」
「マジ?オンナ?
どれどれ」
「なんだってー」
駆け寄ってくる…オトコの子たち!
ギャー、ギャーッゥ!!
いやー
すぐ見つかったーどうしよー!!
そんな!
大勢で近寄って来ないでー!
こわいしー。
「いや、わたし、用事があって」
「遊びいこうぜーどこ行くどこ行く?」
「おれと行こう。マジ
いいとこ知ってるから」
「いや、むりです!」
「だよなー。おれと行くんだもんね。
名前は?」
って、強めの紅葉の拒否も軽く受け流す
若業生たち。
ひえ、え。
視線を上げた紅葉。
ドキン。
ひえ、えええぇ。
奏ちゃん。
坂道をだるそうに登ってきた奏ちゃん。
学ランからのぞく
ブラック地のパーカー。
英語から炎が上がっている大きなロゴの
フードを
目深に被っている。
最初は
そのフードと少しウェーブの
かかった前髪にかくれて
奏ちゃんの目が
よく見えなかったけど…。
バチ。
何気なく、こちらを向いた
奏ちゃんと紅葉の視線がクロスする。
ドキンドキン。
ど、どうしよ。こんな状況で
で、でも
「そ、」奏ちゃん、そう言いかける紅葉。
表情は変えないのに
あきらかに
機嫌が悪そうな奏ちゃんは
視線を紅葉から外すと
足を止めず、
そのまま坂道を、登っていく。
あ…。
ムシ、されちゃった。
「ねー。行こ行こ♫」
「逆ナンしに来たん?」
なんてまだ、言っている
うるさい外野の声は
紅葉には、もう聞こえなくて
奏ちゃん…。
怒ってる…。むかついてる…。
呆れてる…。
もう、わたしのことなんて
キライ…?
どれも当てはまりそうで
紅葉の勇気は今にもペシャンコに
なりそうだけど。
けど…。
これでいいの?
…
…良くない。
頑張るんでしょ?
そのために、来たんでしょ?
…奏ちゃん。
ドクドク。
うるさい鼓動に
冷たい心臓に
キモチ引っ張られちゃう前に
覚悟!決めてっ。
紅葉!
「そ、奏ちゃん!!」
紅葉の大きな声は響いて。
勢いよく振り返った紅葉。
遠ざかる奏ちゃんの背中に
叫ぶ。
「奏ちゃん!」