マシュマロベイビー


トルルルル。




機械音のあと、しばらくして





電車が大きな音とともに入ってくる。






お、ラッキ。




座れるじゃん。




(そう)のいつもの乗車駅から




だいぶ遠いせいか。



まだ、車内は人が少ない。



シートに腰掛ける奏。




マジ



今日どうしよっかな。




このまま帰って、寝ちまおうか。





…あー。サイアク



今日保体あるじゃん。



おれ梶本(体育の先生)に



メン割れてんもんなー。





どうすっかなー。




もうリーチ(停学2回)だしなー。




出席日数も、やばいもんなー。



けど、眠い…。



ワンチャン バレないことを期待して




帰っちまうか。



……



ウトウトして。



視線をあげた奏の視界に




いつの間にか混んでいる車内。





…時間が早いからか。




普段の朝じゃ見かけない制服の群れ。




そういや、工業と進学校じゃ



朝のスタートも時間違うんだっけ。



見事に若業はいない。




ちら。ちら。




「きゃっ。目合った!」




なんて、小声で騒ぐ



こっちを盗み見してた女の子たちと




目が合う。




…。



奏は気づかないフリで視線を外す。




このマスクのせいか



昔から女の子にはあんまり



苦労したことない。




そのわりに特定の女の子…



とういうか、ちゃんとした恋愛しないから



遊び人だなんだって



言われるけど。



別に。




奏にそんな意識はなくて



いろんな子とつき合いたいなんて




願望は全然無いんだけどな。




気づいたら、



お互いにめんどくさくない



比重を置かないでいい



相手を選んでる。



まじめそうな、本気そうな子は



無意識に避けているのかもしれない。




本気になっていないなら



…傷つけることが、わかっているから。



…。


ん。あれ?





ドア口に立っている





セーラーの女。





サラって、流れそうなセミロングの黒髪。




奏から見える横顔は





すっとした瞳を縁取る長いまつ毛が





車外からの朝日に明るく照らされて





光ってる。





軽く結んだくちびる。






確か…




アラタのツレの、ツレ。





奏の視線に気づいたのか




窓の外に視線を向けていた紅葉(くれは)





車内へ視線をめぐらした。





バチ。





2人の視線がぶつかる。





眠たさからか





なんとなしに、紅葉をみつめたままの奏。





…。






フイ。






紅葉は奏を無視した。






…はいはい。おれらみたいなのは




大っ嫌いなんだよな。



別にどうでもいいけど。



…。




あー。やっぱ、この睡魔やべぇ。




奏のまぶたはいつの間にか





閉じていた。




…。





…。





とん。





とんとん。






…ん。




「…ね。ねえ」




とんとん揺らす手と、声に




奏は目を覚ました。





ん?



おれ、寝てた?




目の前に紅葉が奏を覗き込む感じで




立っていた。




「降りなくていいの?



若業前だよ」




やっと奏が起きたので、ほっとしたような




顔する紅葉。




「ん?ああ。」



そう言って、奏は立ち上がった。





あ、いや。俺は帰るつもりだったんだけどな…




そう思ったけど。




奏は



ドアが閉まるギリギリに




ホームに降り立った。




降りちゃった。



電車を振り返る。




あいつ。



シカトしたくせに、



乗り過ごすのは見過ごせなくて




起こしてきたわけ?




車内の紅葉と目が合う。




変なオンナ。




そう思いながら、奏は




軽く紅葉に手を振った。




紅葉もちょっと迷って




軽く手を振る。




2人して微妙な表情してる。




フッ。



走り出した電車を背に



笑ってしまう奏。




しゃーねー



学校行くか。





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