マシュマロベイビー
一瞬の静寂のあと
「…は?」
イラついた声がして。
それまで、テーブルに突っ伏していたのか、
視界に入っていなかった男の子が急に
立ち上がった。
急に現れたように感じた長身に
萌はちょっとビックリしたけど。
見上げるさき、
サラっておでこで柔らかそうな
茶色い髪が揺れた。
目元まである長めのマッシュヘア。
その下には
黒目がちでやや垂れ目気味な
アーモンドアイ。
ふっくらした下まぶたが優しい印象の目元。
その瞳が
今は
萌を睨んでいる。
くっきりした眉毛が眉間に寄せられて
シャープなアゴラインの顔の中には
鼻筋の通った
高い鼻。
ふっくらした口元が
文句いいたげに、歪んだ。
「そこまで言う必要あんのかよ。」
思ったより少年っぽい声で、
広い肩をいからせてるから
その引っ張られたシャツが
ピンって伸びてる。
そんなガチ切れしているそのオトコに
「まあまあ。」
「おいおい。どったの?アラタ。
アラタがそんな。
まして。女の子に
切れるなんて、珍しい」
周りの子の声。
「マジで切れんなよ、アラタ
初めて見たわ。アラタのキレてるとこ。」
ヘアバンドが萌に向き直り言った。
「ごめんねー。
こいつがさー」
ヘアバンドが
奥に座っている
ツーブロックのオトコを指して
言う。
「今日彼女と別れたばっかで、
すげえ。落ち込んでて。
他にもいい子はたくさんいるよ。っつって、
そこにかわいい子が来たから
ついさー。
みんなで盛り上がってしまいました。
な、アラタ?
ちょい。落ち着け」
ヘアバンドが空気を明るくしようとするけど
でもアラタは聞いてなくて
「声かけられんのが嫌なら
そんな格好して、こんなとこで
働いてんじゃねえよっ」
言い放った。
…すごまないでよ。
こわい。
言われて、あらためて
萌は自分の格好を見下ろした。
このお店の制服は
フリルの付いた白シャツに
ピンクのチェック柄の
エプロンみたいな、
ジャンバースカート。
胸の下で切替があるから
確かに胸は目立つ…
…そんなの、わかってるし。
わたしだって
わたしだって
こんな制服着たくない。
だけど…
ギュっ。
萌のハンデイを持つ手に力が入る。