マシュマロベイビー
紅葉のお腹の上あたりに
筋肉質なカタイ腕の感触。
痛みを訴えてた身体が
瞬時に重力を忘れたように
軽くなる。
?
冷や汗を浮かべた
紅葉が見上げると
うそ。
…奏ちゃん。
平日なのに私服姿。
薄いブルーと、ホワイトで重ね着された
ロングのダボっとしたTシャツに
ブラックのデニム姿。
胸元で大きなチャームのネックレスが揺れてる。
何で、奏ちゃんが…
「だいじょうぶだか…」そう言って
奏の手を離れようとする
紅葉。
「いいから。
もたれとけよ」
紅葉の抵抗なんて
気にも止めてないみたい。
チカラを緩めない奏の手は
紅葉を離さない。
「や。だいじょ
離しっ」
一瞬。
痛みを忘れるくらい
親密な身体の熱に
胸がうるさくなる。
あくまで、反発しようとした紅葉に
奏が言う。
「あきらめろ。」
「ほんとに…」反発しかけた紅葉の声は。
「黙らねえと、
抱っこするぞ」
「…」
容易に荷物のように紅葉を担ぐ
奏が想像できて
思わず黙らされてしまう。
その落ち着いた奏の声。
それとはギャップがありすぎる
紅葉の心のなか。
うう。
そのまま沈黙してしまう紅葉。
ちっくしょー。抵抗する元気もない…
奏が腕一本で紅葉の身体を支えて
そのまま勝手に
自分の体にもたせかけるから
すっごく、楽だよ?
ラクだけど…。
頬が、髪が
奏ちゃんに
奏ちゃんの身体に触れて
まるで、抱きしめられているみたい。
近すぎる距離に
戸惑うよ。
あの、海の日から…
あの〝キス〝の日から
会ってなかったのに。
奏ちゃんが
どうして、キスしたのか。
流れ?雰囲気?なんとなく?
キスしたくなったから?
ただ、スキをみせちゃったから?
…わたしに
キスしたかったから?
私が、
キスしちゃったのは
何で?
考えてもわからなくて
なんか、突き詰めるのも
…こわくて。
大体わたし
警戒心強いはずなのに
簡単にキスされるなんて
わたしもダメダメで
嫌がる理性を軽々と
勝手に飛び越えさせる
奏ちゃんは…
ほんとに
危険だ。
だから、もう
みんなで会う以外は
かかわらないようにしよう!
そう思ってたのに…。
ちら。
見上げる奏ちゃんの横顔は
いつもの無表情。
こんな、ドギマギしている
わたしがバカみたい。
…やっぱり
意味のないことなんだよね?
わたしみたいに…
きっと、奏ちゃんは悩んだり
考えたりしてないよ。
きっと、キスのことなんて
わたしのことなんて。
気にもとめてない。
いまも、
朝なのに
遊びに行ってた帰りっぽい。
…女のひとといたのかも。
だって、
密着したその体から
甘い
女の人の香水の残り香がする。
勝手に
胸が締めつけられる自分がいやだ。