マシュマロベイビー


パタパタパタっ。




ハアハア。




あがる息。




「紅葉っ。



すごい、こわいんだけど」



「うん。萌



とにかく、逃げよ」




この年になって、鬼ごっこしてるような



気分。




捕まっちゃやばい




鬼ごっこ。



バタバタ。走る自分たちの足音。



荒い呼吸音も耳元で鳴る。



ドクドク



心臓の音もうるさくて



サンダルが走る勢いをジャマする。




頭の片隅では



何で逃げなくちゃいけないの?




って、思うけど



奏ちゃん。めちゃくちゃキレてた。



あの剣幕の奏が追いかけてくると



思うと、



走る足を止められない紅葉。




こわ。こわ。こわいし。



「何だー追いかけっこかー?」



ふざけて、並走しようとする人がいたり



「こっちに入ってけよー」



そんなまわりの声も無視して走る。



人が多すぎて、隠れるとこなんてないしーっ。



あっ、でも。もう結構走ったし



もう奏ちゃんも、紅葉たちが



どこにいるか、




わかんないかも



って紅葉の足が止まりかけたとき



バッ。



通り過ぎようとした廊下から




急に出てきた腕に



萌の身体が宙に浮いた。



萌の腰を支えるように捕まえたのはアラタの腕。



「キャっ」萌の悲鳴。



「萌っ!」ちょっと、怒ったような



アラタの声。



「紅葉ー



構わず逃げてぇー」




眉毛を下げた萌が叫ぶ。



えーん。



紅葉は前に向き直って



また走る。



「紅葉!」



萌を胸にガッチリと捕まえたまま



アラタが、遅ればせながら



呼んだけど



いや。


ほんとに



こわっ。



ムリ。



何でそんな怒って



追いかけてくるのー?!



紅葉の足は止まらない。



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