マシュマロベイビー
焦った。
マジで焦った。
萌たち来てるし!
何でか、逃げるし!
何やってんだよ。
あれだけ、来るなって言ったのに…。
冷や汗かくアラタ。
若業の学園祭は
出席率ほぼ100%の超激アツイベントだ。
若業の毎日の出席率から考えれば
ありえない数字。
なぜなら、クラスで出す模擬店。
その優勝クラスには
豪華な特典が与えられる。
冬季に行われる地獄のマラソン大会で
裏方にまわれる特権。
プラス
クラス人数分の学食無料券
それにプラス
停学リーチを一回、
回避できる特権!!
というありえない
豪華な褒美がついている。
これで、燃えない若業生はいない。
長年にわたるあまりの若業祭の
荒廃ぶりに
学校側がくりだした
わかりやすいこのご褒美制に
燃えに燃える若業生たち。
なので、若業の学園祭はお祭りであり
戦いなのだ。
(先生たちは不正防止のため
ゲシュタポばりのパトロールにぬかりなし)
だから、あのめんどくさがりの
奏でも
俄然やる気なのだ。
そうでもなけりゃ、あの奏が
女の子のご機嫌とって呼び込みなんて
死んでもしない。
そのうえ、若業の学園祭といえば
ナンパ天国だ。
近隣にもそれは、伝わっているので
くるオンナの子たちも、
ナンパされ目的が多くて
彼女がいる奴らもまず、学園祭には
彼女は呼ばない。
襲われるまでは、さすがにないけど
狙われまくるから。
たがら、萌たちがくるなんて
論外!
だから来るなって言ったのに
そんなアラタの思いとは違って
やっと捕まえた萌は
何か…怒ってる?
「は、離して」
言われて、
俺の腕が萌の
細い腰に遠慮なく
巻きついてるのに、気づく。
俺の両腕で抱えられて
抱っこされてるみたいな萌。
腕の中に、萌がいる。
いつもより近いおでこ
俺と一緒で荒い息して
紅潮した頬で、
俺を見てる。
それでも離さないアラタに
『?』って萌が首をかしげる。
離したくねぇな…。
ほんとは、そう思うけど
それでも、しょうがなく
萌を下ろしたアラタは
右手を差し出した。
「…手」
キョトンとする萌。
「手、ちょうだい」
聞く俺に
「え?」びっくりした顔する萌。
「繋いでないと、
どっか行っちゃいそうじゃん。
萌」
そう言って、俺は返事を聞く前に
勝手に萌の
手を握った。
俺は、そのまま萌を連れて、歩き出す。
正直、心臓はバクバク。
振り払われるんじゃないかって…。
けど、萌の小さな手は
ちゃんと、俺の手のひらの中。
やべえな、おれ。
すげえ、嬉しいんだけど。
顔がにやけそうになる…。
すれ違う奴らが言ってくる。
「おおー。アラタ。何、オンナ連れかよー」
「なになに。アラター彼女かぁ?」
「うるせえよ。」って、取りあわず
通り過ぎる。
ちょっと言われて、自慢したい気持ち
半分。
萌をジロジロ見るなよって気持ち
半分。
さっき、出店に寄ってくれた子たちにも
声かけられる。
「アラタくーん。
後でまた行くねー」
「えー。アラタ、どこ行くのー?」
「おーさっきは、ありがとねー」って
いなしてく。
優勝のために、めっちゃ頑張って接客した
らしい
顔も覚えてない子たち
うるせえな。って、悪いけど思ってしまう。
それよりもどっか、
萌と話せるとこ、ないかな。
そう思ってたアラタに後ろから萌の声。
「アラタくん人気ものだね」
「え?いや?」
歩きながら話す二人。
「さっきも上から見てたよ。
すごい、女の子たくさん来てたね」
ん?
萌の声は普通だったけれど
人混みばかりで、並んで歩けない2人。
アラタが歩きながら
萌を振り返るけど。
下を向いて後ろを歩く
萌の顔がよく見えなくて。
「え?いや。
ほんと、普通にお客さんだし
ただのトモダチだよ?みんな」
アラタは誤解されないようにって思って
言った。
けど、
やっと見えた萌の表情。
え?
「そうだね。
〝トモダチ〝だもんね」
萌が笑って、
繋いだ2人の手を上に掲げた。
…眉を下げた笑い顔の萌。
萌?
思わず
口をひらきかけたアラタ。
けど、アラタが言おうとした言葉は
「アラターっ!!」
「見つけたぞーっっ。
アラターっ。
確保ーっっ」
そのやろうたちの大声に止められた。