マシュマロベイビー
オレとあの子のはなし
「はい。捕まえた」
後ろから軽く肩に手をかける。
「キャ。やだ。なにー?」
そう言いながらも、嬉しそうに振り返る
知らない女の子たち。
何とかくちびるの端を曲げる奏
「ここ。
めっちゃ、オモロいから
マジで。寄ってってよ」
一緒に客寄せしてたワタルが
前に回って言う。
1組ゲットー。
誘導された子たちを
アラタが
すげえ笑顔で迎えてる。
輝いて見えるわ笑
すげえな…アイツ。
あの、要領良さはなんなんだ。
はー。
おれもう限界。
…これ
いつまでやんの?
普段こんな笑わないからか、
顔の筋肉がいてえ。
楽しくもねえのに、笑えねえよ。
何とか貼り付けた笑顔らしき表情も
壊れつつある奏。
もう…いいんじゃね?
けっーこう、がんばっただろ。
首を巡らすと、
店の奥に立っていた
コウタと目が合う。
そんな奏の表情にビンカンなコウタ。
バッ。頭上で両手をクロスさせ。
グッ。胸元でファイティングポーズ。
『まだ、ダメ!
がんばって!!」
マジか…。
…
「じゃあ…
後で一緒に写真撮ってくれる?
なら、いいよぉ」
「写真?はいはい。オケ。
寄ってってねー」
適当に合わせながら、奏の頭の中は…
どうやって、バックレっかな…。
「ねー。写真ー!」
さっきの子が寄ってくる。
優勝特典のためとはいえ
マジで…めんどくせえ。
だいたい知らないやつと写真撮って
どうすんだ?何のために?
くしゃ。
手を突っ込んだポケットには
携帯忘れたなんて、みえみえの
嘘吐く奏に
それでも、渡された連絡先が数枚。
顔も覚えてねぇよ。
別に女の子は普通に好きだし。
真剣につきあったこともある。
けど、何か…ただ
めんどくせえんだよな。
普通の恋愛。
意味のない長々とした
メッセのやりとり
電話して、会いに行って
告って?
〝何で会いに来てくれないの?〝
〝何でちゃんと
メッセの返事してくれないの?〝
〝言わなくてもわかってほしい〝
〝ちゃんと言葉で言ってよ〝
〝記念日だよ?〝
〝あたしのことほんとに好きなの?〝
マジメな恋愛には向いてないのか、
そこまでかけるバイタリティが、
熱意が
おれにはない。
今は…
ゆかさんと時々会う
それくらいの関係がちょうどいい
そう思ってた。
カシャ。
スマホのシャッター音にも
もう、笑顔はみせない奏。
そんなとき
「奏司郎のバカーっっ」
頭上からいきなり
降ってきたこえ。
は?
…
は?
見上げる校舎。
騒がしい周りの声。
奏の〝キレ〝を心配するまわりをよそに
奏は視線をめぐらす。
どこから聞こえたのかも定かじゃないこえ。
その他大勢に囲まれて
奏は、場違いな
いるはずのない存在に
意識が連れ出されたみたいだ。
一瞬で
くさっていた感覚が変わる。
焦りにだけど。
マジで?
ここに…
若業祭に来てんの?
あのオンナ…。
何やってんだ!
「くれはーっっ」
奏は叫んでいた。
走り出したあとに思う。
ていうか何でおれ
声でわかっちゃってんの。