マシュマロベイビー
数歩
歩きかけた萌。
風が通ったように
空気が動いて…
バンっ。
「キャっ」
教室のドアに手をかけた萌の右側に
アラタの右手が通せんぼするみたいに
立ち塞がる。
身体が固まって、振り向けない萌。
そっと
視線だけ、少しずらしたら
アラタの筋張った腕が
すぐ横に見えた。
「…なんで?」
そう、いつもとは違うアラタの低い声。
ドキドキ。
苦しくて。
後ろから壁ドン状態?
なんて、思ったらますます
やばくて
視線が、上げられないよー。
えっと…なんで?
って?
え?
背中にアラタくんの存在感が
すごくて
くらくらしそうで…
肌が…
発火しそうぅ…
頭なんて働かない。
答えない萌に
「何で、逃げるの?」
アラタが言う。
だって
ドキドキして
…変になりそうなんだもん。
アラタの近すぎる声にも
ひとりで
ドキドキしすぎて
ついに、萌の足が
へにゃって、崩れる。
座り込んでしまった萌。
少し戸惑って
でも、同じようにしゃがんだ
アラタ。
萌からチラッて見えたアラタくん。
上半身が…ハダカ。
うわーん。もう。
いつもの、
わたしの知ってる
アラタくんじゃないみたいなんだもん。
だって、いつもは
優しくて
ニコニコしてて
そんななんか
ぞくってするような…声、しないし。
こんなわたしが困るみたいに
ドキドキさせること…
こんな〝オトコ〝ってしないのにー
え?
それともわたしが勝手に
そう思っちゃってるだけ?
意識しているだけなのかな?
自分で自分がわからない。
自分のつま先だけの視界の中で
グルグル考えるけど
全然思考は先に進まなくて
どうしていいか、わかんない。
とにかく、こんな自分でもわからない
自分。
アラタくんに見せたくなくて
変なこと言いたくなくて
また、前みたいに気まずい思い
してほしくない。
だって、
…だって、アラタくんに
嫌われたくない。