マシュマロベイビー
なんだ、これ。
胸がすげえ痛い。
萌がすっごい嫌がっているのわかるのに
俺を嫌がっているってわかるのに…
このまま萌を帰したら…もう
ダメな気がして
もう終わりそうで
「…イヤだ、って言ったら?」
アラタの口が言葉を継いだ。
何か、すげえ胸が痛くて
バカなこと考えてしまう。
今
手をのばせば、
簡単に萌は俺の腕の中だ。
拒否られたって、ちからの差で
きっと
簡単だ。
今抱きしめたら、
今キスしたら、
萌が…
俺のものになる?
なんて、
…わけない。
そんなことしたら
きっともうおれには
笑ってくれない。
今までそれなりに恋愛もしてきたつもりで、
彼女もいて。
けど、こんなに動けないなんて
初めてだよ。
…きつい。
きついのに
それでも、
そんな思いしたとしても
萌が欲しいなんて。
動き出さない自分の右手と
動きたいココロのジレンマに
葛藤してたら
萌が
勇気を出すみたいに
バッて、こっち向いて言った。
「アラタくん?
あ、あの…ごめんね?
私、調子乗ってた?
ご、ごめんね」
そう言って、
俺の悩んでる右手を萌のちっさい手が
ギュって掴む。
おれの目を覗き込んで
「わたし、ほんと
オトコの人が苦手で
嫌いだったのに
アラタくんたちが、トモダチになってくれて
ほんとに楽しくて
嬉しかったの。
だから…」
「アラタくん。
嫌いにならないで」
すがるような目で
おれを見つめる萌。
“トモダチ“のおれを必要とする萌。
マジで言ってるから
タチ悪いよ。
そんな心配そうな顔して
コドモみたいにピュアな萌。
そんで、…残酷な萌。
アラタは
はー。って、
重いため息をついた。
そんで、言った。
「嫌いになんかなるわけないじゃん。
…トモダチだろ」
“トモダチ“って言葉に
泣かされそうになるなんて
どうなってんだ。
そんな俺の気持ちなんて知らずに
嬉しそうな顔する萌。
…あーもうっ。
「ハグさせて」
おれはハッキリ言う。
「え?」
びっくり顔の萌を無視して
おれは当たり前みたいに
でも
そっと
萌を抱きしめる。
「トモダチのハグ」
ぎゅう。
腕の中に柔らかい感触。
ちょっとは戸惑えばいいよ。
なんてったって、トモダチのハグなんだから
おれの胸がこんなに熱いのは
知らなくてもいいよ。
でも
今だけは
おれの腕の中にいて。