魔女の紅茶
ここがキッチン、ここがバスルーム、ここが、ここが、と歩き回りながら説明をする彼女の華奢な背中に抱きつきたい衝動を押さえるのは、もう何度目だろうか。
契約を終え、あのトロくさいぽやぽや野郎を魔女に返してから、呪いを解き、彼女の本宅と思われるここに「頼る奴なんざいねぇ。家も財産も当然ねぇ。なぁあんたと一緒に暮らしてぇ。ダメか?」と半ば無理矢理ついてきたまでは良かったのだが。
「っンでてめぇまでここに住むんだ!このぽやぽや野郎がッ!」
「っぽ!?だって!仕方ないじゃないですか!騎士団にいた時は団員用の寮に住んでましたけど、魔女様にお仕えする為に辞めまちゃいましたから帰る家なんて僕にはないんですもん!」
もん!じゃねぇよきめぇ。
「くそが。なぁおい」
頬を膨らませあからさまに怒っているポーズをとるぽやぽや野郎は玄関に放置して、ソファーに座って優雅にひとりティータイムをしている魔女の横へ座れば、色素の薄い瞳をチラリと向けられる。くそ、無表情なのに可愛いとか卑怯だろ。
「名前、教えろよ」
「何故?」
「この先ずっと魔女って呼ぶわけにはいかねぇだろ」
「そう?」
「そうだろ。つうかあんたも俺の事きみだとかお姫様だとか呼ぶのやめろ。カーティス・ゼインっつう名前があンだからよ」
「ゼイン」
「っち!げぇだろ!ンでそっちなんだ!カーティスって呼べや!」
「カーティス」
「っ……ンだよ、」
「紅茶が冷めてしまうから、坊やを呼んできてくれないかしら?」
「呼ぶかよくそが!俺は珈琲しか飲まねぇンだよ!」
「あら」
「あ?」
「私、珈琲って苦手なの」
何なんだよてめぇ可愛いかよ。