魔女の紅茶
はるか昔に記された文献によると、獣人は純銀の弾や刃物でしか傷を付けられないらしい。薬室を開けて弾を見てみたけれど、純銀ではない。これでは撃つだけ無駄というか僕が反撃されるだけなのでは?といつの間にやら大人しくなっていたゼイン様に視線を向けると、何故か彼の口にガムテープが貼られていた。それを必死に剥がそうと彼はもがいていた。ので、僕は何も見ていない事にした。うーうー唸る声が聞こえてくるけれど、それも聞こえていない振りをした。
「……あの、魔女様、」
「何」
「獣人族は、純銀でしか傷付かないと本で読みました」
薬室を閉じ、青白磁の瞳へと視線を向け直すも視線は噛み合わない。こくりと紅茶を一口飲み込んでようやく魔女様は僕へと視線を向けてくれた。
「そんなもの、迷信よ」
「え、いや、ですが、」
「あの獣……スローピィ達は撃ってからでも弾を避けられるもの。純銀だろうと鉛だろうと、当たらなければ傷なんてつかないわ」
「……」
「そもそも、それを言い出したのは私よ。坊や」
「っえ、」
「その当時は銀が希少だったの。だから、純銀でなければ、と言ったのよ。面白いでしょう?当てられもしないのに私財を投じてまであの獣を屠ろうとしていたのよ、人間達は」
くすり、微々たる角度のつけられた艶やかな唇から嘲笑が漏れた。瞬間、ぞくりとしたものが背筋を走り、ごくりと自身の喉が鳴らしたその音が鮮明に鼓膜へと響く。
ああやはり、魔女様は、魔女様だ。
当たり前としか言い様のないそれを脳内で一巡させながら、気を抜けば緩んでしまうであろう口を固く結ぶ。
「……最初の一匹が、長だった場合はどうされますか」
「私としてはその方が好都合だわ」
「かしこまりました」
それでも、吐き出した音に歓喜が混ざるのを阻止する事はどうにも難しかった。