魔女の紅茶
「えっぐいな、あんた」
傀儡と化していた二匹を連れて獣達が帰ったあと、「竜人族ぅうう」と何やらトラウマでもあるのかえぐえぐ泣いていたクリスを「良い子だから」と寝かし付けて紅茶を楽しむ時の定位置へと戻れば、「珈琲」発言以降黙っていたカーティスが小さな音にのせてそれを吐いた。
「だって、死んでからだと質がすごく落ちるんだもの」
「は、そっちじゃねぇよ」
「……」
「分かってやってンだろ?魔女さんよォ」
はて、何の事やら。新しく淹れた紅茶よりもまず隣の彼を先に寝かし付けようか。騒がしいのはあまり好きではない。とはいえ、声を荒げる様子もない彼を強制的に黙らせてしまうのは何だか味気ない。話題を変える意図も含めて寝なくても平気なのかと遠回しに問えば「二人きりだからな」とよく分からない返答を投げられた。
まぁ、平気だと言うのなら平気なのだろう。彼は昨日、朝早くに喰い千切られて一日のほとんどを寝て過ごした。寧ろ眠くないのかもしれない。魔女は睡眠や食事などといった行為を必要としないから、その辺りの配慮についてはさじ加減が難しいところだ。自己申告をして睡眠も食事も勝手にしてくれれば助かるのだけれど、カーティスはともかくクリスは私が促さなければどちらも疎かにしそうな節がある。出来れば、カーティスにそれを上手く押し付けたいところだ。
「おい」
「何」
「俺しかいねぇ時にぽやぽや野郎の事考えてンじゃねぇよ」
「怒らないで。きみの事も考えてたわ」
「きみの事、も?」
どうやら、彼らを同列に並べるのは地雷のようだ。おそらく隣の彼に限った事なのだろうけれど。不機嫌を存分に含んだ声で言葉を返される。人語はなかなかに複雑で厄介だ。かといって彼に魔女の言語を教えるわけにもいかない。そもそも魔女の言語は魔女にしか理解出来ないようになっている。【魔女】という生き物はこの世界において、たった一人しかいないというのに。