魔女の紅茶
ぱちり、一度だけ瞬いて、思案する。
目を覚ましてからずっと、彼は問いかけてばかりだった。けれどその問いかけよりも優先すべき事があったから結局のところ私はそれに答えていない。「何で生きてる」と、己の生命がある事に狼狽えている様子だったけれど、少し考えればそれはとても簡単な事だ。死なない限り、生物は生き続けるのだから。
「安心して。きみは生きる屍になったわけではないから」
「……違うンか」
不安に駆られゆらゆらと揺らいでいた瞳に安堵が混ざり、僅かに彼の肩の力が抜けるのが伺えた。
確かにあれほどの傷を負えば普通は死んでいる。そう、普通の人間ならば。
「……でも、おかしいだろ……喉、喰い破られたんだぞ。それに、」
「ねぇ、カーティス」
「……ンだよ」
「きみは、私が私の伴侶をぞんざいに扱うとでも?」
「……」
「確かに魔女は、他を愛さないとされているわ。だから私の持つ感情は、きみの求めるものではないかもしれない。けれど、きみは私にとって特別な存在よ」
「……っ、」
未だ私の腕を掴んだままの無骨な手に、そっと自身の手を乗せれば、ほんのりと彼の頬が色付く。扱い易いなどと言えば聞こえは悪いが、うだうだと食い下がられるよりは良い。
「魔女に仕える者を含め、魔女に深く関わる者は他者から狙わ易くなるわ。昨日のきみのようにね」
「……」
「いくら魔女でも【死】をなかった事には出来ない。だから死なないようにしたの」
「死なねぇのか」
「そうね。きみが心から死にたいと願うか、寿命が尽きない限りは」
「……」
「でも気を付けてね。傷を負わないというわけではないから」
「……だろうな」
「どんな傷を負おうと死にはしないわ。けれど手足を切り落とされたり気絶させられたりして動けなくなれば、どこかに埋められたり監禁されたりする可能性だってあるの」
「……」
「嫌になったらいつでも言ってね?常に命を狙われているなんて気分の良いものではないでしょう?」
「……」
「代わりを寄越せなんて言わないから安心して」
ね?と少しだけ首を傾げれば、どういうわけか彼の眉根がそこそこの勢いで寄せられた。