魔女の紅茶
これでもかという程に種を主張する、頭部に生えた二本の角と背に生えた二対の翼。ここからでは見えやしないが、尾も生えているらしい。ただ少し背丈が高い事と肌が褐色だという特徴を除けば、付属部分以外は人間となんら変わらない竜人族様がわざわざこんな人間の集落近くまで何のご用か。ご丁寧に原始的な罠まで仕掛けて。
なんて、聞くまでもなく目的は目下吊り下げられ中の俺なのだろう。番という単語と、あの日の、魔女と獣人族との会話を加味すれば考えるまでもない。確か、竜人族の王が癇癪中だとか何とか。俺の真下で嘲笑を浮かべながらペットの餌を踏み潰しているこいつが、王なのだろうか。
「聞いてるのか、劣等種族」
目玉を動かせるだけ動かして空と地とその間を見渡してみたが、残念ながら空は木々に隠され見えず、地に立つ竜人族はざっと二十人ほど。一人だけ少し離れた木の枝に腰を降ろしてこちらを見ているようだけれど、幸いドラゴンは近くにいないようだ。まぁ、当然と言えば当然だろう。幼体ならともかく成体まで成長したドラゴンはとにかくデカイ。いくら魔女の屋敷から離れているとはいえドラゴンが羽ばたくなり唸るなりすれば、即バレる。罠を仕掛けて待ち伏せという手段を用いるあたり、魔女と相見える気はさらさらないのだろう。
魔女を相手にすンのは怖ぇのか。だっせぇな。
「っ、おい……何だ、こいつは……犬……か?」
竜人族の常套手段ともいえるドラゴンの姿が見えない事に思考を巡らせていれば、嘲笑を浮かべていた竜人の声色に困惑が混ざる。
犬?とそいつの視線が向いている方向へと目玉を動かせば、なるほど、確かに黒い、犬にしては大きめの、けれど狼というにはどこか物足りない、そんな生き物がトコトコと竜人に向かって歩いている。それに対し竜人は一歩後退り、腰に帯びた短剣へと手を伸ばした。