魔女の紅茶
「まぁつまるところ、助けて欲しいのでしょう?」
ことり、ティーカップをソーサーに戻した魔女様は青白磁の瞳をこちらへと向ける。
「そう、です。報酬は出来る限りご希望にそえ」
「きみ」
「るよう……え?」
「きみ」
「…………はい?」
「きみをくれるなら、助けてあげなくもない」
「……え、と、あの、僕……いやあの私は、」
「十秒で決めて。決めないなら話は終わりよ。坊や」
「っしかし、」
「九」
「ぼ……わ、私は国に」
「八」
「仕えている身で」
「七六五」
「っちょ、魔女様!?」
「二」
「飛びましたけど!?」
「一」
「っお、仰せのままに!」
「……」
「魔女様、貴女に従います。ですからどうか、」
「決まりね」
僅かに動いた魔女様の口元。どうしようもなくゆるく描かれた弧に思わず見惚れてしまったのは、単なる男の性だと思いたい。艶やかな黒髪、キメ細やかな肌と青白磁の瞳に厚みのある桜色の唇。端的に言えば美しい、しかもほとんど表情を動かさないその人の微笑みに反応しないでいるというのはなかなかの難題だ。というか無理だ。少なくとも僕には。
そうだよ決して惑わされている訳じゃないんだ単なる好みかそうでないかの問題なんだよと一人ごちていれば、左手首に少しの重みとひやりとした感触。はっとしてそこへ意識と視線を向ければ、複雑な模様のようなそれでいて文字のようにも見えるものが彫られた銀色のそれが隙間なく手首を覆っていた。じゃらりとそこから伸びた二センチ程の鎖のようなものが揺れたけれど、手枷ではないと僕は信じたい。
「これで契約完了よ、坊や」
「え、と、あの、魔女様?この、あの、手枷のようなものは一体……?」
「気にしなくていいわ。きみが私を見捨てたらこの世のありとあらゆる苦痛を味わいながらもがき苦しむようになるっていうだけの呪いだから」
え、何それ。