魔女の紅茶
或いは。
そう竜人が続けたところで、ぱんっ、とひとつ、手を叩いたような音が聞こえた。
「そこまで言うのなら、」
かと思えば、瞬いてもいないのに切り替わる景色。
鬱蒼と生い茂る木々の中にいたはずなのに、魔女様が音をひとつ立てれば、視界は見慣れた屋敷の応接間へと早変わり。魔女様がいつも紅茶を嗜まれているお部屋だ。
「こうしましょう」
ぱちんとまたしても音が鳴る。
ティーポットと二つのティーカップが並ぶテーブル。対面するソファーの片側に魔女様とゼイン様、もう片側に竜人族の王。あ、クルル様がいない。
「……魔女の紅茶、か」
「ええ。説明は不要かしら」
「俺は、な。だがそこの人間はどうだろうな」
くつり、二度目の嘲笑。魔女様の右斜め後ろに立っているせいか、竜人の顔が、特に人間を見下している琥珀色の眼が鬱陶しいほどよく見える。昨日今日産まれたばかりの赤子じゃあるまいし、いくらゼイン様が呪いにかけられていたからといっても【魔女の紅茶】を知らないとは思えない。現に彼は、この十日間で幾度となく魔女様が振る舞った紅茶に一度も口を付けた事がないのだから。
氷を熱すれば溶けてしまうように、当たり前だろうと言ってしまえる程度には誰だって知っている。それが振る舞われる意味と、それを受け取った者の末路を。
きっと、両者ともに飲めやしない。だからこそ、なのだろうけれど。
「っ、ゼイン様!?」
そう思ったのも束の間。予想に反し、ゼイン様はティーカップを手に取り、躊躇う事なくその中身を口の中へと流し込んだ。