魔女の紅茶

「ええ、そうね」

 頷き、ゆるりと口端を持ち上げれば、ぱちりと柘榴色が瞬く。ならば話とは?とでも言いたげなそれを見据え、ひとつ、指を鳴らす。
 テーブルの上に現れた新たな二つのティーポットと、二つのティーカップ。珈琲の入っているカップをカーティスに渡してから、紅茶の入っている方に口を付けた。

「話、というよりはそうね、宣言、みたいなものかしら」
「……ンだそりゃ」
「飲むと思わなかったの」
「……」
「きみを、見くびっていたわ」
「……いや、飲むだろ。普通に」

 あんた、何言ってンだ。
 疑うという事を知らない子供のように、きょとりとする柘榴色は音もなくそれを語る。【魔女の紅茶】を飲む事がきみの中で普通にあたるのならば、きみが生きるこの世界は異常な者達で溢れている、という事になってしまうのに。
 ふふっ。堪えきれずこぼれた私のそれに「ンだよ!」と声を荒らげる、そんな些細な事すら愛おしく感じてしまうのだから、困る。

「悪い事をした、なんて微塵も思っていないけれど、一応謝っておくわ。ごめんなさい、カーティス。あと、文句は受けつ」
「全ッ!然!話が!見えねぇ!説明しろ!説明!」

 ぱちん、指を鳴らす。勿論、今度は紅茶が目的ではない。音に(いざな)われ、私とカーティスの間にふよりと浮いて現れた一冊の分厚い本。タイトルなんて記されていないぼろぼろの表紙はひとりでにぺらりとめくれ、お目当てのページを開かんとぱらぱら音を立てる。
 ぱらり。止まったそこを読むように促せば、カーティスはちらりと視線を向け、そして、目を見開いた。

「……俺ァどこからつっこめばいいンだ」
「そこに書いてある事と、きみの感じているものが、全てよ」
「……」
「嘘はひとつもないわ」
「……は、」

 ははっ。
 手渡した珈琲に口を付けないままテーブルへと戻したカーティスは、感情の読み取れない乾いた笑い声を吐き出したあと「やっとかよ」と呟いた。
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