魔女の紅茶
「というわけでして、副団長」
魔女様の許しを得て、門越しにそれまでの経緯を事細かに話せば、副団長は元々厳めしいお顔をさらにしかめ、ぎりぎりと歯噛みをした。無論それは僕の真横に立ち、僕の腕に絡み付いている魔女様にも聞こえている事だろう。何故、腕に絡み付かれているのか。そんなの僕が一番知りたい。甲冑のせいで本来味わえたであろう感触が味わえなかった事だけが悔やまれる。
「お言葉ですが魔女様、我々人間の足では王都まで最低でも三週間はかかります。魔女様に我々もお連れ頂くか、魔女様が我々と共に来て頂かないと、」
「ならばその辺でドラゴンでも捕まえて背中に乗せてもらいなさいな。王都までなら人間ひとり食べさせれば乗せてくれるわよ」
先の説明の中で、言外にきみ達は勝手に帰ればいいというような旨が含まれていたからだろう。堪らずといった様子の副団長が魔女様に抗議し提案するも、やはり魔女様は首を縦には振らない。それどころか「四人もいるんだもの」と僅かに口元を歪ませた。
「っ、魔女様!いくら貴女でも言って良い事と悪い事が」
「あら」
「っ」
「きみ達は国の為にと言いながら命のひとつも差し出せやしないのね」
ドラゴン。それは人語を理解するほどの知能を持つ翼のはえた生物だ。彼らは人間が大好物だが、むやみやたらに襲いはしない。その気になれば人間など一瞬にして滅ぼせるほどの力を持つ彼らが人間を喰らうのは、自分達が襲われた時か、人間達の願いを聞き入れ叶えた時だけだ。
ドラゴンの鱗や牙は他国からの侵略などから国を護るあらゆる素材となる為、それを差し出す代わりに食用の人間を要求する。人間が素材目当てにドラゴンを襲ったところで返り討ちに合うのが関の山だし、喰われても自業自得だ。逆にドラゴンが無作為に人間を襲えば、その報復に卵や孵化したばかり幼体を狙われてしまう。それを鑑みれば、犠牲は伴うけれど無駄のない賢い選択だと僕は思う。
だからといって、一年にも満たない時間だが苦楽を共にした彼らの誰かを犠牲に出来るかといえば決してそうではない。
「あ、あの魔女様、」
「何かしら。私の可愛い坊や」
「かわっ!?あ、いや、あの、魔女様が嫌がられているのはぼ……私も承知しております。ですが、どうか今だけは、協力して頂けないでしょうか」
「……」
「わ、私と魔女様の契約は既に完了しています。なので、今度は我々の依頼を全うして頂きたいのです。その為には我々騎士団と共に王都に向かって頂く必要がございまして」
「……」
「魔女様、どうか、」
「……分かったわ」
はぁ、と魔女様が息を吐いた。