魔女の紅茶
「……その呪いの副産物が人喰いの森、というわけですか」
「ええ」
いや結局どういう事なんだ。
そんな言葉を飲み込みでもしたのだろう。腑に落ちないといった表情を浮かべ、坊やはもっと分かりやすい言葉を乞うかのような視線を私へと向ける。
「……食事をしなくなると、人間はどうなるかしら」
「餓死……します」
「ええそうね。普通はそうだし、そう思うわよね」
「……普通は……?」
「ただ閉じ込めただけならば早々に餓死して終わりでしょう?でもそんなの、面白くないもの」
「……」
「だから、混ぜたのよ。ただ生きているだけなら生きていける呪いを」
「……呪いに呪いを、ですか……?」
「ええ」
「……」
「まぁそれをあの女には教えたりなんてしていないのだけれどね。おそらく途中で気付いたのでしょう。だから最近になって、森が人間を食べ始めた」
「……それって、まさか、」
「ただ生きていた女が死んだ。そして、棺が開かれた」
「……」
「呪いは、奇跡だとかそんなお綺麗事じゃないの。当然、対価が伴う」
「……」
「そしてそれが、等価だとは限らない」
遠回しに言葉を吐きながら手に入れたばかりの坊やの様子を窺えば、ゆっくりと、けれども着実にこれらの意味を咀嚼出来ているのか、分かりやすく顔から血の気がひいていくのが見て取れる。
噛み締められてもなお震えの止まない下唇、ゆらりと揺れる男性にしては大きめなその瞳。
「まぁお喋りはこの辺にして、そろそろ館へ向かいましょう。私の可愛い坊や」
ぐっと拳が握られたのを見届けてから、そっと坊やの頬に触れた。