諦めた心

一華が少しずつ元の生活に戻り
俺も大学院で過ごす時間が増えてきた
その時になり
怜がいないと気づいた。

たまたま、なんだろうと
それぐらいしか考えていなかった。

その日は、院内のカフェで
次の講義を待っていると
近くに座っている女の子達が····

『大賀君、編入試験受けたみたいよ。
ここの系列の。
後一年だったのにね。』
『だって仕方ないよ。
どこかの大学生を自殺に
追い込んだんでしょ。
学長の耳に入ったとかで』
『優秀な人だから
辞めさせるのには抵抗があって
編入と言うと形になったみたいだね
まあ、アメリカでしょ。
いいんじゃない?
あの人、日本人離れしていたし。』
『でもさ、怖いよね。
自分の利益しか考えない人が
弁護士とかになるなんて。』
『彼は、
元からそんな感じじゃない。
冷たいし。
でもその子、大丈夫だったのかな』
と、話をしていた。

一華の事だ。
怜が、編入?
俺は、その場を離れて
教授の元に行き
訊ねてみた。

「大賀君は、カリフォルニア大学の
大学院に編入したよ。
本人も海外に興味があったらしい。
彼の経歴に傷がつかないように
学長も配慮したのかな。」
と、言われた。

俺は、理由には触れずに
「そうですか。」
と、だけ言ってその場を離れた。

どこの誰が学長にまで
知らせたのかわからないが

一華の事だとは
知られていないようだ。
教授からも俺に確認もなかったから。

罰せられた訳でもないし
弁護士や検事の路が
絶たれたわけでもないから
悔しい気持ちもあるが
もう関わりたくない
一華にも二度と
関わってほしくない
その気持ちだけだった。

だから
この事が一華の耳に入らないように
しなければと····思った。
< 24 / 49 >

この作品をシェア

pagetop