反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~
「突然のお呼び出しに応じていただき感謝する。聖女殿」
 前方3m。立派というよりはごてごてとした椅子に太った髭面の中年が座っている。
 ……異世界召喚で呼び出された、私は聖女らしい。
 転移の間とやらで全身白装束、顔には目の部分だけ開けた先がとがったマスクまでしてカルト集団にしか思えない不気味な男から説明を受けた。
「呼び出しに応じた覚えはありません。勝手に連れてこられたのです。こちらの国ではどうだか知りませんが、私の国ではこれは『誘拐』という犯罪になります。感謝の言葉は必要ありませんので、即刻帰してください」
 王の間とやらにおとなしく連れてこられたのも、これを言うため。
 どうしたらいいんだろうとおろおろするほど若くもない。
 ……そして……。
「へっ、陛下に向かってなんと無礼な口の利き方を!」
 と、”陛下”の横に立っていた狐顔のおっさんが唾を飛ばした。
 日本ほど人々の人権が保障されてない国で、王に盾突く真似がどれほど愚かな行為なのかってのもわかっている。
 冷静さを失っているわけじゃない。
 自分勝手な人間が嫌い。
 人を人と思ってない、自分の都合のよい駒にしか思ってない人間が嫌い。
 そして、そんな人たちのために働くなんてまっぴらごめん。
 それくらいなら、殺された方がマシだ。
「まぁまぁ、落ち着いてください。聖女様。我々としても苦渋の決断だったのですよ。あらかじめ連絡手段があればよかったのですが、こちらの言葉を事前に伝える方法が見つからず、こうして急きょいらしていただくことになったのは謝ります。ですが、どうか、我々の話を聞いてください」
 狐顔の反対側に立っていた、糸目の豚顔のおっさんが落ち着いた口調で口を開く。
「謝られようと許せることではありませんので。話を聞くつもりもありません。即刻帰してください」
 イライラする。
 なぜ、自分の都合だけを押し付けるのか。
 こうだったから仕方がないなんて、どうして自分はだから悪くないんだと言えるのか。
 頭が、割れそうに痛む。
 ああ、思い出したくない過去が頭をよぎる。

 深夜に叩かれるドア。
「先生、先生はいるか?お腹が痛いんだ、見てくれよ」
 ドンドンドンと、家じゅうにドアをたたく音が響く。
 深夜に、町で唯一の診療所のうちに駆け込んできた患者。
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