反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~
「お父さんは立派なお医者さんだったのに、残念だったね」
 ふざけんな。虫に刺されてひどく腫れただけで早朝尋ねて無理をさせたのは覚えている。
「お父さんは、町の人たちに感謝されてるよ。きっと極楽浄土に行ったよ」
 ふざけんな。いつも飲んでいる薬がなくなったからって、買い物途中の父を診療所に呼び戻したのは覚えている。
「人を助けることが生きがいだったろうから、幸せな最期だったと思うよ」
「そうそう、医者は天職だったね」
 ……
「あなたたちが……父を、殺したのよ……。ブラック企業で過労死が問題になってるけれど……ここはブラック町……過労死させたのはあなたたち全員よ……」
 怒りが頂点に達し、ついに爆発してしまった。
「な、何を言っているんだ……医者なんだから、いつ病気になるかなんてわからないんだから、俺たちだって好きで病気になってるわけじゃないんだぞ?」
「そうだ、そうだ。わしらも好きで病気になるわけじゃない」
「他の病院へ行ってくださいと、私は何度もお願いしました。父が体調を崩して……。隣町の総合病院まで……タクシーに乗れば30分もかかりません。タクシー代がもったいないと言ったのは誰ですか?救急車を呼ぶほどじゃないなら翌日の診療時間に来ればいいのに、無理に父に診させたのは誰ですか?休まれると困ると……医者なら患者を見捨てるなと、いつ病気になってもいいように、ずっと診療所を開けておいてほしいと、無理を言ったのは誰ですか、ねぇ、無理を言う人たちを誰かひとりでもたしなめてくれましたか?便利だからって、いいように利用して……」
 怒りに任せて怒鳴り散らす私に、誰かが口を開いた。
「まぁ、落ち着いて。父親を亡くしてショックなのは分かるけれど……。助けられる人間を見捨てていたら地獄に落ちてたぞ」
「はっ、じゃぁ、皆地獄落ちね!助けられる人間を見捨てながら生きてるじゃないっ」
 嫌い。
 嫌い。
 嫌い。
 この町の人たちは嫌い。
 父を医者だからって言葉でしばりつけて奴隷のように働かせた人達が嫌い。
「わしらは医者じゃないから、お父さんのように立派な人間じゃないよ。誰も助けられない」
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