反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~
「知らなかったなら仕方がないけれど、今、教えてあげる。知った後も見捨て続けるなら、地獄に落ちるけど。世の中にはお金さえあれば助かる命はいくらだってある。わずか数千円で救われる命が世界にはある。お金がなくて治療が受けられない、お金がなくて食事ができない、お金がなくてワクチンが打てない……。救いなさいよっ、救えるのに見捨てたら地獄に落ちるっていうなら、救いなさいよっ!お金を出せ!自分の身を削っても、救えるなら、救いなさいよっ!自分は何もしない癖に、救う手段を持っていたって、何もしない癖にっ、人殺し!人殺しめ!」
 気を失い、気がついたら葬儀は終わっていた。
 叔母に「大変だったね。かわいそうに」と言われ、泣いた。
 叔母も泣いていた。

 なぜ、人は時として自分が正しいと疑わず相手に無理な要求をするのだろう。
 患者の自分は、医者に診てもらえて当たり前。見捨てる医者は悪だ。SNSで拡散してやる。
 客の自分の要求は、店に受け入れられて当たり前。客は神様だから。店の対応が悪いとレビューしてやる。
 子供のやったことは、大目に見てもらえて当たり前。子供は宝でしょう。許せないとは大人げないと批判してやる。
 ――。
 世界を救う力をもった聖女は、世界を救って当たり前。
 はっ。
 冗談じゃない。
 私は聖女になりたいなんて言ってないし、聖女になったからって、救う救わないなんて私の自由。誰かに命じられて無理やり奴隷のように命を削って危険を冒して働くつもりなんてこれっぽっちもない。
 そりゃ、目の前で死にそうになっている人がいれば助けたいと思うけれど。
 見えない場所の知らない人のために財産投げうって寄付する人がいないように。聖女だからって、助ける義理はないし義務もないし見捨てるのかって呪いの言葉で心が傷つけられる言われはない。キリストさえ、世界中の人を救ったわけじゃないんだから。パンをどれだけの人に配れた?
 もちろん、教えが人々の心を救うという話はまた別。
「聞こえませんでしたか?早く帰してください」
 豚面の男を睨み付ける。
「今この瞬間も、苦しんでいる人間が大勢いるというのに、見捨てるというのですか?」
 はい、来ましたね。見捨てる見捨てないの話。
「国の最高責任者はそこに座っている人では?国民を救うのはその人の役割でしょう?苦しんでいるのは私のせいじゃない」
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