反逆の聖女は癒さない~赤ちゃん育てるのに忙しいので~
「だから、陛下はお前を呼んだんだろうが!何も手をこまねいているわけではないっ!」
 狐面がキンキンとうるさい声で怒鳴る。
「詳しい話を聞くつもりはありませんが、苦しんでいるという人の中には、貧しくて食べるものがなくて苦しんでいる人もいるんじゃないですか?じゃぁ、あなたは、その人を救うために食事を提供しますか?国中に貧しくて苦しい人がいるはずですよね?国中の苦しんでいる人を救おうと思えば、そんな立派な服を買うお金は残らないんじゃないんですか?あなたも、そっちの人も、陛下も。苦しんでいる人を見捨てている人たちが、なぜ、私に苦しんでいる人を見捨てるのかと問うのか疑問です」
 豚面の男がふっと笑った。
「ああ、そういうことですか。お金でしたら望むままとはいきませんが、一生豪遊して過ごせるだけはご用意させていただきますよ。領地がほしいのであれば、豊かな土地を与えましょう」
 は?何をいっているのか全く分からない。
 お金があるなら国民救えよって話をしたんで、お金をくれれば聖女として救ってやるなんて話はしてない。
 そもそも……お金があったって……亡くなった父は生き返らない。お金の問題なんかじゃない。「金を払ってやるんだから文句ないだろ」というやつは嫌い。
 金で命が買えるとでも思っているのかっ!

「日本に帰してください。苦しんでいる人は、自分たちで救ってください」
 今まで落ち着いた口調で話をしていた豚顔の男が苦虫をかみつぶしたような顔を見せた。
「どこまで強欲な」
 強欲?
 私、何も要求していないけど。
「そうしてもったいぶって聖女の力を使うことを拒否して、何を要求しようというのだ」
 会話にならない。
「聖女の力は使わない。この国は救わない。私は帰りたいだけ。早く帰してください」
 豚面の男をにらむ。
 すると、ずっと黙っていた陛下が口を開いた。
「もう、よい」
 肘あてに肘をつき、逆の手を挙げた。
「おとなしく従っていれば好待遇で迎え入れてやろうと思っていたが……。おい、やれ」
 陛下の合図で、黒装束の男が3人私の周りを取り囲んだ。黒いロング丈のローブで全身を覆い、頭には先がとがった三角の目の部分だけ開いたマスク。
 黒魔術にでも取りつかれたカルト集団か!と言いたい人たちだ。
「今ならまだ間に合うぞ?痛い目にあいたくなければ言うことを聞くんだ」
 はぁ?
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