お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
再会は突然に
梅雨が明けたばかりの夏空が眩しい7月のとある週末。お見合いといったらまずはここと言われるくらい鉄板中の鉄板。某有名老舗ホテルのラウンジで、私は見ず知らずの男性と強制的に向かい合わされていた。
不意打ちのお見合いのを仕組んだ張本人。勤め先の社長であり、囲碁のプロ棋士だった私の祖父の教え子だったという榊のおじさまは、「あとは若い方同士で」とお見合いの常套句を残して、とっとと帰ってしまった。お相手の連れの方も、またしかり。きっと榊のおじさまと示し合わせていたに違いない。
「夏美さんは、囲碁がご趣味だとか」
お見合いの相手、加藤さんは私より年上の32歳。都内の大手銀行で営業職に就いているという。真面目を絵に描いたような、銀縁の眼鏡がよく似合う実直そうな人だ。
「あ、いえ。そうですね、まあ……」
「嬉しいな。私もなんですよ」
曖昧に流そうと思ったのに、加藤さんは食いつき気味に返事を被せてきた。
趣味どころか、これでもほんの数年前まではプロ棋士を目指してたんですよ。まあ、夢破れて今ここにいるわけですが。だからあんまり囲碁の話はしたくないんです、なんて。
正直に言えたらどんなに楽だろうか。
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