お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「ったく、店の前で待ってろって言ったのに、なんで黙って帰ってるんだ!」
優しい拓海が、ものすごい剣幕で怒っている。それだけで、どれだけ心配してくれたかわかる。
今、雨が降っていてよかった。私が泣いていても、拓海にはわからないはず。
「ごめ……、ごめんなさ……」
言葉にならない私を見て、拓海が肩を抱き寄せる。昨日までの私なら、拓海を近くで感じられて浮かれていただろう。触れられるだけでドキドキして、胸をときめかせていたかもしれない。
でも今は、こうして触れられるのもつらい。
「大きな声出して悪かった。……うちに帰ろう」
「うん……」
結局私には、拓海から逃げ出す勇気はないんだ。黙って彼に手を引かれ、広場を後にした。