お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 家に帰り着いたときには、雨は止んでいた。

「ほら、タオル」

「ありがとう……」

 私のせいで拓海までびしょ濡れだ。


「夏美、なにかあったの? 俺があれだけ言ったのに、先に帰るなんて」

 拓海が他の女性と一緒にいたのを見た後で、知らぬふりをしてあなたの車に乗るなんてできなかったの。

 本当のことを言えるはずもなく、私は押し黙った。


「夏美?」

 心配そうに、拓海が私の顔を覗く。どうしてか、私は拓海と目を合わせられなくてそっぽを向いた。


「……夏美?」

 もう一度、拓海が私の名前を読んだ。つい目を逸らしてしまったことが気まずくて、気がついたときには、自分でも驚くほど、スラスラと嘘を吐いていた。


「……ごめんね。拓海にメッセージを入れた後にお店の外に出てみたら、思ってた以上に酔ってて、酔い覚ましに少し歩こうと思ったの。そしたら拓海に連絡するのをつい忘れちゃってて、完全に忘れて電車に乗ってた」

 私の苦しい言い訳を、厳しい顔つきで聞いている。また怒られるんじゃないかと思ったけれど、拓海は深くため息をつくと、私の頭を撫でた。


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