お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「なんだそれ、夏美らしくない。飲み過ぎだぞ」
「……ほんとそうだよね。ごめんなさい」
「なにもなかったからよかったけど、もう絶対にしないでくれ。心配で胸が潰れるかと思った」
そう言って、切なそうな目で私を見る。
……嘘ばっかり。胸が潰れそうだなんて、どうしてそんな思ってもないこと言うの。苦しくて、拓海に背中を向けた。
彼からは見えないのをいいことに、唇を噛んで体を拭く。また涙が出てきそうだった。
「ちゃんと体拭いたか?早くシャワー浴びてこいよ」
「いいよ、拓海が先に浴びて」
素っ気なく、そう返事をする。それに、忙しい拓海に風邪を引かせるわけにはいかない。
「それならいっそ、一緒に入るか?」
ジョークめかして、拓海が笑う。
「……いいよ、別に。一緒に入っても」
口に出した声は、擦れていた。拓海がハッと息を呑む音がする。
「夏美、それが……どういう意味かわかってるの?」
押し殺した声で、拓海が言う。私を見る目に、違う光が宿ったのがわかった。
「ちゃんとわかってるよ……」