お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 なにも考えられなくなるようなキスを繰り返し、一つ、二つと私のブラウスのボタンを外していく。情熱的なキスに溺れていて、気がついたときには、ふたりとも何も身につけてはいなかった。


 急にキスが止んで目を開けると、拓海がベッドに両腕をついて私を見下ろしていた。


「あんまり見ないで」

 まじまじと鑑賞されるほど、自慢できるような体でもない。


「綺麗だ、夏美」

 拓海は一瞬泣き出しそうな顔をした後、もう一度私に口づけた。優しく、愛おしむように何度も何度も口づける。


「でも、本当にいいの。この先に進んだら、俺はもうやめられない」

 優しい顔、紳士的な笑顔、激しく怒った顔、ふざけたときの飾らない笑顔。今まで見てきたどの顔とも違う、男の顔をして拓海が私を見ている。

「やめないで」

 ふいに愛しさが溢れて、私は彼に手を伸ばした。


「拓海、拓海」


 きつく抱きしめられ、声が枯れるほど何度も拓海の名前を呼んだ。拓海はなにかをぶつけるように、まだ、もう一度と私に手を伸ばす。


 心を伴わない行為の虚しさは、拓海によって与えられた熱でいつの間にかかき消えていた。



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