お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 どれくらいこうしていたんだろう。目を覚ますと、うっすらと空が白んでいた。

 拓海は私を腕に抱き、まだ寝息を立てている。彼を起こさないようにそっと腕から抜け出し、ベッドの下に落ちていたシャツを羽織った。


 夢でも見ていたのではないだろうか。拓海の隣に座り、起き抜けのまだ少しぼうっとした頭でそう考える。

 でも、見下ろした自分の胸にはちらほら赤いしるしが散っているし、身体はひどく重怠い。
そして私の体からは、かすかに拓海が好んでつけているトワレが香っている。

 胸の痛みを感じながら、シャツのボタンを留めた。


 気持ちも通じ合っていないのに、私は拓海と一線を越えてしまったのだ。それも、あの知らない女性に彼を取られたくない一心で。

 私はなんて醜い心を持っていたのだろう。自分の中に、こんなに激しい衝動が眠っていたなんて知らなかった。


 そして拓海は、気持ちのない私が相手なのに、驚くほど情熱的に私を抱いた。

 初めは優しく、未知の体を少しずつ暴いてくように。そして二人の肌がなじんでくると、激しく想いを注ぎ込むように。

 拓海が、彼女の代わりに私を抱いたのだとしたら。行為の最中の拓海の感情が、全て彼女に向けられたものなのだとしたら。そう考えると、ちぎれそうなほど心が痛い。


 いつの間に私は、こんなに拓海のことを好きになっていたんだろう。


 好きな人と結ばれた朝は、今まで感じたことないほどの幸福感に満ち溢れているものなのに。今の私は、自己嫌悪で胸が潰れそうだ。


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