お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「こっちはいつでも準備OKなんだけど」
仏頂面で、下を向いてしまう。突然触れられたのが照れくさくて、つい可愛くない反応をしてしまった。
今朝、拓海のベッドで目覚めてからというもの、彼が醸し出す雰囲気が甘ったるい気がしてならない。拓海は、たとえ気持ちがなくても、一度ベッドを共にすると、情が湧くタイプなのだろうか。
「夏美」
一人で悶々としていると、拓海に顎を持ち上げられた。しっとりと甘いキスをされる。一度唇を離し、もう一度名残惜し気に口づけると、拓海は「行ってくる」と部屋を出て行った。
パタンと静かに閉まるドアの音を合図に、誰もいないリビングにへなへなと座り込む。
「こんなんで、どうやって気持ちを閉じ込めろって言うの……」
好きな人に甘やかされるときめきと、でもこれを真に受けてはいけないという胸の痛みで動けない。
トイレにでも行くのか、こはるが拓海の部屋から出て来た。ちらりとこちらを見てつんとしっぽを立て、バカじゃないのとでも言いたげな顔で、私の前を横切って行く。