お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

「夏美は時間あるの? 上の階にガーデンスペースがあるんだけど、そこで一緒に食べない?」

 聞けば、空中庭園だけでなく、ちょっとしたカフェやドッグランなんかもあるらしい。

「わ、行きたい!」

 ランチバッグを間に拓海と話していると、「……夏美ちゃん?」と私を呼ぶ声がした。

 8階のオフィスから出て来たのは、拓海の兄の湊人さんと、意外な人物だった。


「びっくりした。まさかこんなところで会うなんて」

「聖司さん……。湊人さんも、こんにちは」

「夏美ちゃん、いらっしゃい」

 湊人さんが私を見て、柔らかな笑みを浮かべる。それとは対照的に、聖司さんは冷ややかな空気を発しているように感じた。

「そうか、君ら知り合いなんだ。聖司は俺と大学の同期でね」

 近くにきたついでに、久しぶりに顔を出してくれたんだ、と湊人さんが言う。


 彼、(その)()(せい)()さんは、私の祖父の愛弟子だ。

中学入学と同時に祖父の弟子となり、高校1年生のときにプロデビュー。めきめきと頭角を現し、19歳のとき史上最年少でタイトルを獲得した。

若手の中でも最も人気のある棋士だ。クールで整ったルックスも相まって、女性のファンも多い。


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