お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「……なんだか、えらそうなやつだったな」
「そう? でも実際すごい人なの。デビュー直後から色々な記録を塗り替えちゃって」
彼のことは苦手だけれど、才能は認めざるを得ない。
聖司さんは、間違いなくこれからの囲碁界を背負って立つ人だと思う。
「そんなことより早くガーデンに行こう。私までお腹空いちゃった」
早く話題を変えたくて、拓海に言う。
聖司さんのことを考えていると、囲碁を諦めた頃の卑屈な自分が顔を出す。そんな気もちのまま、拓美と向き合いたくはなかった。
「……そうだな」
「拓海?」
見上げた彼は、なにか言いたげな顔をしている。
「なんでもないよ。たしかに、腹減ったな」
「あんまり期待しないでね。言うほど得意ってわけじゃないから」
「バカだな、夏美が作ってくれたから嬉しいんだよ」
眩しい笑顔で、そんなことを言う。
一緒にお弁当を食べて、ガーデンを散策してリフレッシュして。少し長めの休憩を取った拓海は、満足そうな顔で午後の仕事に戻っていった。