お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「既婚者じゃなかったとしても、私があそこに入るのはちょっと厳しいかな」
集まっているのは、おそらく佐奈さんの友人達だ。私よりもずっと年下の子達ばかりに見える。みんな鮮やかな色のドレスで着飾っていて、とても華やかだ。
「なに言ってるんだ。夏美だって負けてないよ」
「そう言ってくれるのは拓海だけだよ。ありがとう」
こんな時なのに、拓海は私に優しい。でも彼の胸中を思うと、堪らない気持ちになる。
今日の私は、黒のタイトなワンピースで、全体的にシックな装いにしている。
式の主役はあくまで佐奈さん。私は完璧な引き立て役に徹するつもりだ。
にぎやかなブーケトスの様子を眺めていると、ちょうど私達の対角線上に、聖司さんが立っているのを見つけた。ブーケトスの真っ最中だというのに、数人の若い女性達に囲まれている。
彼も新郎側のゲストの一人なのに、やはり周りの人は放っておいてくれないらしい。聖司さんがなにかを話すと、ようやく女性達が離れていった。
その様子を眺めていると、聖司さんが立っている私に気がついた。ポケットの中からスマホを取り出して、なにやら打ち込んでいる。
しばらくすると、クラッチバッグの中に入れていたスマホから振動が伝わって来た。メッセージの送り主は聖司さん。『今日、式の後なら時間が取れる』とある。
聖司さんからのメッセージを見てホッと息を吐いた。私からどうしても聖司さんに話したいことがあったのだ。
聖司さんに向かって『うん』と一度頷いて見せると、彼も視線で返事を返してくれた。そうしている間に、ブーケトスは終わっていた。
「終わったな。夏美、披露宴が始まる前に、親族の控室に寄って行こうか。親戚連中が、夏美のことを紹介しろってうるさいんだ」
まだ式を挙げていない私たちは、正式な挨拶ができていないかたも多い。一瞬迷ったけれど、行けないなんて言えるはずもなく……。
「うん、わかった」
私は、拓海の後に続いた。