お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
私は、佐奈さんがうちに来たときの様子を拓海に伝えた。私には懐こうとしないこはるが、佐奈さんにはべったりだったことも。
「だから、きっと佐奈さんは拓海のところにしょっちゅう来てたんだろうなと思ったの。佐奈さんはこはるのことが気になって来てたんだろうけど、拓海は佐奈さんが来てくれることが嬉しかったのかも、って……」
「佐奈がこな……、こはるに会いにうちに来てたのは間違いないけど、別にやましいことなんてないよ。前に言ったろ? あいつはずっと兄貴のことが好きだったんだって。だからどうしたら俺との結婚を回避できるか、うちで話し合ってたんだよ」
「えっ、そうなの?」
てっきり湊人さんを一途に想う佐奈さんに同情して、話を聞いてあげてたんだと思っていた。
「むしろ、うちに来るたびに『拓海となんて絶対に結婚したくない、早くどうにかして!』なんて言われて、結構俺も参ってたんだよ」
「佐奈さんが?」
湊人さんを想うあまり、佐奈さんも必死だったんだ。
その当時の佐奈さんの気持ちを想うと、胸が苦しくなる。目を潤ませる私を見て、なぜか拓海は呆れたため息を吐いた。
「……あのな、夏美はちょっと勘違いしているみたいだけど、佐奈って結構たくましいぞ。清楚なお嬢さんに見えて、わがままなところもあるし」
「え? とてもじゃないけどそんなふうには見えない……」
「だろうな。でも俺は、子どもの頃から兄貴よりは年が近いってだけであいつの世話を押しつけられて、結構辟易してたんだよ。俺の方だって、あいつとの結婚なんてとんでもないって思ってたよ」
微笑ましい幼馴染みの関係を想像していたけれど、私の想像とはちょっと違っていたみたい。でもそれはそれで、いい関係だと思う。本物の兄妹みたいで、一人娘の私にはちょっと羨ましい。