お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「……じゃあ、私が見たのはなんだったの? 拓海と佐奈さん、ふたりで会ってたよね? あの日……」
「あの日?」
私は、綾さんと飲みに行った帰り、佐奈さんと拓海がふたりでいるところを偶然見かけたことを話した。
「あの時夏美がいなくなったのは、それが理由?」
「……そうだけど」
私が答えると、拓海は口元を手で隠した。「んん!」と咳払いをすると、ようやく口を開く。
「夏美、それって佐奈にヤキモチ焼いてたってこと?」
「っ! それは…」
真っ赤になった私の頭を、拓海がそっと撫でる。彼の顔を見上げると、少しだけ照れたような、でも優しい顔で私を見ていた。
「苦しい思いさせてごめんな。あの日は、兄貴のことでまた佐奈から相談を受けたんだよ」
「でも、あの頃はもう湊人さんと佐奈さんの結婚は決まってたはずよね?」
湊人さんの様子からしても、私と拓海が相馬家に結婚の挨拶に行った時には、すでに湊人さんと佐奈さんの結婚話が進んでいたはず。
「俺との婚約が無事なくなって、佐奈は喜んでたけど」
佐奈さんとの縁談を反故にして、さっさと私との結婚を決めてしまった拓海に、湊人さんはひどく腹を立てていたという。