お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「ああ、慰めてくれるのか。おまえは優しいな」
まるで飼い主を労わるかのように、拓海の顔をペロペロと舐めている。
その光景を微笑ましく眺めていると、式場で佐奈さんが言っていたことをが頭を過った。
たしか佐奈さんは、こはるのことを『こなつ』と呼んでみて、と言っていた。
「……こなつ」
私が呼ぶと、拓海にじゃれていたこはるが、ぴくりと動きを止めた。
「こなつ?」
もう一度、そう呼んでみる。こはるは私の方を向くと、「にゃあ」と一声鳴いた。
「夏美、その名前どこで……」
「あなた、本当はこはるじゃなくてこなつなの?」
もう一度訊くと、またにゃあと返事をする。
「おいで、こなつ」
私が両手を差し出すと、拓海の方を振り返りもせず、腕の中に飛んできた。体を撫でてあげると、気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。
……う、嬉しい! こなつが私の腕に抱かれている。
「……ねえ拓海、どういうことか説明してもらえる?」
拓海をじろりと睨むと、彼はわかりやすくうなだれた。
「恥ずかしくて、知られたくなかったんだよ。好きな子の名前を飼い猫につけてるなんて」
好きな子、と言われて一瞬どきりとする。もう拓海とは夫婦なのに、『好きな子』なんて言われるだけでこんなに胸が高鳴るなんて。
「ねえ拓海、この子の本当の名前って……」