お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
契約結婚いたしましょう
週末。社長が手配してくれたタクシーに乗って、私は享和園を訪れた。
入り口の自動ドアに、一見、清楚な装いをした女性の姿が映る。肩甲骨のあたりまである髪を一つにまとめ、バレッタで留めている。紺色の楚々としたフレアのワンピースに、アンティークレースの襟が可愛らしい。
「やっぱり、似合ってないよね……?」
普段から、脚立片手に会社内を走り回ってるような女だ。会社の制服はともかく、プライベートではパンツ姿の方がよっぽどしっくりくる。
28にもなってこのファッションはちょっと可愛すぎないか……とも思ったのだけれど、今日のためにとわざわざおじさまが贈ってくれたものだ。さすがの私も、おじさまの好意を無下にすることはできない。
「ごちそうとお土産のため。ごちそうとお土産のため」
気を抜けば込み上げて来る羞恥心を呪文で無理やり押し込め、私は料亭の仲居さんについて、用意された一室に入った。
「なんだこれ……?」
中庭を臨む豪華な部屋の真ん中に、一対の宴席が設けてある。
どういうこと? 社長は『緊張するだろうから食事は一人で』って言ってたよね?
案内する部屋を、間違えているのかもしれない。仲居さんに確認してみようと、後ろを振り返る。
「あの、お部屋を間違えてませんか?」
「いえ、間違いありませんよ」